民族か、宗教か、人間愛か。深まるミャンマー危機   宇治 敏彦

 ミャンマー西部ラカイン州に暮らす少数民族ロヒンギャの人々が迫害を受け、隣国バングラデシュに緊急避難している問題は、いっこうに打開策が見えない。アウン・サン・スー・チー女史(国家顧問兼外相で事実上の最高指導者)も9月19日の演説で「あらゆる人への人権侵害を非難する」と一般論を述べるとともに、ロヒンギャ難民についても「国籍確認の手続きを進め、受け入れる用意がある」と、ミャンマー国籍を持たないロヒンギャをミャンマー国民として受け入れる可能性を示唆した。
 しかし長年、民主化運動を推進してきてノーベル平和賞を受賞し、2年前に名実ともにミャンマーの最高指導者になったスー・チー女史の発言にしては歯切れが悪い印象をまぬがれない。国民の9割を占める仏教徒に配慮しているのかもしれないが、本来なら「一日も早くロヒンギャの人々の国籍取得を実現し、ミャンマー国民として誇りをもって国家に貢献してほしい」と発言すべきだろう。
 2年前、仕事でミャンマーを訪れた時、同国には135民族が暮らしていると知って驚いた。アメリカや中国も多民族国家だが、同じアジアでも人口13億の中国が55民族だから、人口5100万のミャンマーが135民族というのは、いかに「多民族国家」であるかを示している。その背景には東側はラオスやタイ、北は中国、西側はインドやバングラデシュという5か国に隣接している地理的状況も影響しているだろう。
 いま問題になっているロヒンギャも、もともとは19世紀にインドやバングラデシュから移って来たイスラム教徒といわれている。ラカイン州周辺に暮らすロヒンギャは約100万人といわれてきたが、既に40万人強が治安部隊などの襲撃を受けて家も焼き払われ、隣国のバングラに避難した。9月24日の朝日新聞朝刊によると、日本にも100人近いロヒンギャが避難しているが、難民認定を受けたのは18人にとどまっているという。
なぜロヒンギャの人々は、虐待されるのか。
 2つの理由がある。1つは「ホワイト・ペーパー」と呼ばれる国籍確認証明書がロヒンギャには交付されていないこと。つまり彼らはミャンマー国民ではなく、バングラなどからの「不法移民」という位置づけなのだ。国籍法を改正して長年ミャンマーに居住しているロヒンギャにもホワイト・ペーパーを交付したら良いではないかと思うが、軍や仏教徒の反対が強く、そう簡単にはいかない。スー・チー女史が19日の演説で「国籍付与」に言及しながらも確約しなかったのは、軍や仏教徒への配慮からに違いない。
 もう一つは宗教対立。特に国民の9割が仏教徒というミャンマーでは、ロヒンギャを自国民と認めたくない人びとが多いようだ。これはミャンマーに限らない。2年前、ミャンマーのヤンゴンで開催された国際新聞編集者協会(IPI)第64回総会に出席した際に出会ったスリランカのジャーナリスト、マノリ・カルガンピティヤさん(サバミヤ新聞編集者で人権活動家)は、次のような話をしてくれた。
 「2016年1月、コロンボ南西部で開かれた仏教集団の会合で反イスラム機運が盛り上がってイスラム教徒の商店や家が焼かれ、4人が死亡、80人がけがをした」
 彼女の話によると、スリランカでは人口の約7割が仏教徒で、イスラム教徒とのいざこざが絶えないという。「お互いにヘイトスピーチを止めるよう新聞でも書いているのですが」と強調していたが――。
 この大会にパネラーとして登壇した立正佼成会の庭野光祥次代会長は「人間の弱いところを救うのが宗教の役割であり、宗教間の対話も重要」と強調していたが、ミャンマーやスリランカの現実世界では「宗教」が対立や紛争の要因になっているのだ。「民族」も同じような一面がある。イラクからの独立の賛否を問うイラク北部の自治政府「クルディスタン地域政府」(KRG)による住民投票が25日に行われる。その行方も「民族」「国家」「宗教」問題に大きな影響を与えよう。
 筆者の意見は、こうだ。「民族とは、両親から引き継がれるもので、自分が生まれる前から定められており、誕生後に国籍は変えることが出来ても民族まで変えることは出来ない」「宗教は先祖から引き継ぐことも出来るが、主として成長後の自分の判断で選択ができる」。そういう側面を勘案すると「民族対立は、根が深いバックランドがあって、それを克服し融和を図るのは簡単なことではない」。一方、「宗教対立は個人個人の信仰心しだいでは変更や融和が『民族対立』よりやさしいかもしれない」。そうした中で何が「対立」解決の糸口になるのか。「それは民族も宗教も超えたところにある『人間愛』ではないのか」」
 
スポンサーサイト

北朝鮮ミサイルとファクトとフェイク   小榑雅章

今日、9月15日、午前7時過ぎに、またけたたましく「首相官邸(災害・危機管理情報)が発せられた。
【北朝鮮ミサイル1】先程北朝鮮から発射されたミサイルは、07時06分頃、北海道地方から太平洋へ通過した模様です。なお、ミサイルの破壊措置の実施は無し。不審な物を発見した場合には、決して近寄らず、直ちに警察、消防又は海上保安庁に連絡して下さい。

この官邸からの警報に対し、527件の返信 11,916件のリツイート 9,061 いいね があったことが付記されている。国民の関心の高さがわかる。
テレビのニュースでも、この警報を受けて、何人かの市民の顔がアップされ、「怖いですね」「なんとか止めてもらいたい」「生活が脅かされる」などの談話が報じられている。
この前のブログで同人の宇治さんが、「新聞で見分けるフェイク 知るファクト」という記事を発表しているが、この官邸の危機管理情報は,ファクトなのだろうか。新聞も、これをそのまま報道しているし、なにしろ首相官邸という最も権威あるところの発表だから、ファクトに間違いない、と日本中思っているのだろう。
そして、怖い、いつミサイルが落ちてくるかもしれない。地下室に入れと言われるが、近くにはないし、安全なところに避難と言っても、どこなのか・・・など街でも話し合われているが、本当にミサイルが落ちてくる可能性などあるのだろうか。
つまり、北朝鮮がミサイルを打ち上げ、北海道の上のほうを通過したというのは、ファクトなのだろう。
しかし、それが落ちてくる可能性は、どのくらいあるのか。避難しろとか不審物発見というほどの頻度で、部品、破片などが落ちてくる可能性があるのか、それはファクトなのか。フェイクではないのか。
地下に入れとか不審物を発見したらとか、漁船は注意しろとか言われると、かなりの確率で落ちてくる可能性があるように受け取る。事実、街の声は不安を表し、じっさいに地下室を探している人もいるのだ。
北海道上空通過というのも疑問だ。高度は800キロだという。
領空というのは、大気があり、飛行機が飛べる空間で、80Kmから120Kmの高さといわれているが、それ以上は宇宙空間で、人工衛星がたくさん飛び交っている。今回のミサイルの高度が800キロだとすると、領空といわれる大気圏の10倍も上のほうだ。これを上空というのは、ファクトなのか。フェイクではないのか。ちなみの国際宇宙ステーションの高さは400キロだが、誰も危険だと言わない。
つまり人心を、危険だ、北朝鮮はけしからん、という方向に誘導しようとしたら、破片が落ちてくるように報道し、ミサイルと飛行機と混同するような表現になる。
おなじ事象が、報道によって安全にも危険にも取れるのだ。
つまり、ファクトとフェイクは、報道する側の姿勢、知識、配慮、意図などによって、全く変わってくることも考えておかねばならない。

ちなみに、首相官邸に送られてきたツイッターに
<安倍晋三 支持率落ちたら 北朝鮮>というのがあったそうだ。

フェイクニュースをどうしたら見抜けるか   宇治 敏彦

 「新聞で見分けるフェイク 知るファクト」。今年の新聞週間(10月15日~21日)の代表標語である。横浜の田村美穂さん(無職、64歳)がつくったもので、10月17日、広島で開かれる第70回新聞大会で披露される。
 さまざまな情報伝達手段が世界中に普及し、無数の情報が国境を超えて飛び交っている今日、どの情報が正確(ファクト)で、どの情報が虚偽(フェイク)なのかを見分けることが非常に困難になっている。
 意識的に偽のニュースや情報を流す行為も行われているし、また偽ニュースを流して商売にしている人たちもいるというから驚きだ。毎日新聞が報じた「偽ニュース『売れる』。米サイト最盛期、ライター20人」という記事(8月10日朝刊)によると、米国で「フェイクニュース王」と呼ばれていたロサンゼルスのジェスティン・クーラー(41歳)という人物はネット上で「ナショナル・リポート」という名称でフェイクニュース(偽の記事)を流してきたという。
 たとえば昨年も米大統領選名中に「ヒラリー・クリントン氏のメール問題を捜査していた連邦捜査局(FBI)捜査員が、妻と無理心中した」といった偽ニュースを流し、フェイスブック上では閲覧数が150万回を超えた。閲覧数が増えると広告収入も増える仕組みで、クーラー氏は最盛期には20人のライターを抱え、年間60万ドル(約6600万円)を稼いでいたという。
 こうしたフェイクニュースが大統領選にも大きな影響を与え、トランプ当選、クリントン落選の一因になったともみられる。毎日新聞のリポートによれば、クーラー氏は大統領選後に反省して今はフェイクニュースを流すのを止めたという。しかし、自ら反省して偽情報の発信や流失を止めた人は、ごく一部で、世界中には毎日、無数のフェイク情報が発信されていると見るべきだろう。
 それは日本でも例外でないと思うが、幸い日本では日刊新聞が「ファクト報道」第一主義を堅持していることが救いだ。筆者も2000年、改定に関わった「新聞倫理綱領」(2000年6月21日制定)の一項目では「正確と公正」を掲げ、次のようにうたっている。
 「新聞は歴史の記録者であり、記者の任務は真実の追究である。報道は正確かつ公正でなければならず、記者個人の立場や信条に左右されてはならない。論評は世におもねらず、所信を貫くべきである」
 日本の新聞界では、細かい誤報でもそれが正確でないと確認された場合は訂正記事を出し、社内的処分を行うことが慣例となっている。「あくまでも正確を期そう」という歴史的慣習が定着している限り、日本ではアメリカほどには虚報は流れないだろうと筆者は信じている。
 だが、新聞購読者が減少を続け、ネット利用者が増大していく傾向の中で、いつまでも「日本は大丈夫」と胸を張ることは出来ない時代が到来しているのかもしれない。「ネット社会の中で『見分けるフェイク、知るファクト』をいかに確立するか」。それが大きな課題になって来た。
 
 

萬葉版画館 宇治美術館110

万葉集10-1861

宇治敏彦制作板画 萬葉集10巻1861
のとがはの みなそこさへに てるまでに みかさのやまは さきにけるかも (作者未詳)


出会った人々23 「人間党」をつくりたかった羽田孜元首相   宇治 敏彦

 羽田孜元首相が8月28日、82歳で亡くなった。
 日本の政界で「人が良い政治家は誰か」と問われれば筆者は、羽田孜氏か伊東正義氏(大平内閣の官房長官)をあげる。異論は少ないに違いない。
金丸信・元自民党副総裁(故人)は、旧田中派の3人を次のように表現した。「平時の羽田、乱世の小沢(一郎)、大乱世の梶山(静六)」。これも絶妙な表現だと話題になったが、羽田氏が総理大臣になったのは皮肉にも政界が大乱世の時代であった。
 1993年(平成5年)に大ブームを巻き起こした細川護煕政権は非自民非共産の8党派による連立で、羽田氏も新生党の党首として同政権では副総理兼外務大臣を務めた。細川政権の使命は「政治改革」で、野に下った自民党(河野洋平総裁)との合意で政治改革4法を成立させた。小選挙区比例代表並立制の導入や政党助成金の交付などである。
 だが、その直後に突然のように「国民福祉税」構想(3年後に7%の国民福祉税を導入するというプラン)を打ち出したので、与党内でも社会党などが猛反発した。これを境に細川政権は急速に内部分裂をきたした。しかも細川首相は佐川急便からの1億円借り入れや義父名義のNTT株取得問題で窮地に立ち、約8か月で政権を投げ出した。
 その後に登場したのが第80代首相の羽田氏である。
 しかし、この時点では社会党も野党に転じたので羽田内閣は39年ぶりの少数与党政権となった。こういうときは解散・総選挙によって打開の道を探るのが常道だが、小選挙区制の施行を前に中選挙区制の下で解散するのは「政治改革つぶし」と世論からも集中砲火を浴びるのが目に見えていたので、総辞職に踏み切った。在任期間は64日間と戦後の超短命内閣に終わった。
 羽田氏にまつわるエピソードを一つ。小沢一郎氏らと自民党を離党して「政治改革」を旗印に新生党を立ち上げ、細川政権をつくり、細川退陣後は自らの政権となったが、政治的実績はゼロに等しかった。その後は自民党と社会党が組んで村山富市氏(社会党)を首相とする「びっくりの連立政権」が誕生し、政界は1955年体制の秩序が完全に崩壊した。小沢一郎氏が1994年に今度は自民党の海部俊樹氏を党首に担ぎ出して新進党を立ち上げた。しかし新進党も3年後の1997年末には6党に大分裂をきたし、小沢氏は自由党、羽田氏は太陽党を結成し、自民党離党以来の小沢―羽田連合もついに破局をきたした。
 この時の「太陽党」というのが、いかにも羽田氏らしいネーミングだが、実は「人間党」というのが最初の案だった。しかし、選挙に詳しい事務局員から「立候補者の一覧が新聞などに掲載される際に党派の個所で『新人間』『現人間』『元人間』とかというのは、いかがなものですか」と異論が出され、「太陽党」に落ちついた。
 28日、本当に「元人間」になってしまった羽田孜さん。貴方のような「人の良い政治家」がいなくなった今日の政界に、もう一度舞い戻ってきていただけませんか。

続きを読む

防衛費が毎年増額されるが、なぜですか?   小榑雅章

今日の新聞には、「防衛相5.2兆円要求へ」という見出しが掲げられている。
「防衛省は二〇一八年度予算の概算要求で五兆二千五百五十一億円を盛り込む方針を固めた。・・・北朝鮮による相次ぐ弾道ミサイル発射に対応するための態勢強化を重視した」(東京新聞)
安倍内閣の発足した2012年の防衛費は、4兆7千6百億円だったから、この5年間で10%も軍事費が増えたということだ。
増額もさることながら、なぜ増額するのか、その理由である。
「北朝鮮による相次ぐ弾道ミサイル発射に対応するための態勢強化」だというが、本気で弾道ミサイルに対抗できると思っているのだろうか。
もし、北朝鮮がわが国に対して、ミサイル攻撃をすると宣言しているのであれば、本気で対抗しなければなるまい。しかし、北朝鮮はミサイルをサイパンの領海外に飛ばすとは言っているが、日本の上空を通過すると言っているだけだ。上空といっても領空でもなく、はるか宇宙空間で、そこはやたらと宇宙衛星が通過しているところだ。衛星が通過するから大変だ、落ちてくるかもしれないから迎撃態勢をとらなければ、なんて誰も言わない。そんなことを言ったら、お前はキチガイか、と馬鹿にされるだろう。しかしいま政府や、四国や中国地域の自治体では、万一落下して来たら、堅牢な建物の中に避難してください、と指導している。滑稽というか、国民をばかにするのもほどがあるということだ。
安倍内閣は、ありもしない恐怖を宣伝し、防衛力増強しなければ、と煽っている。自民党だけではない。民進党の中にも同じ尻馬に乗る議員もいる。
そんなに防衛費を増額し軍備を増強したいのか。
防衛力増強は、ここ数年毎年ずっと続いているが、その理由が尖閣列島だった。尖閣に中国が攻めて来たら大変だ、防衛力を増強して、備えなければならない。
本気なのか問いたい。中国が万一尖閣列島を占拠したら、増強した自衛隊で戦うのですか。ドンパチやって戦死者が出ようが沈没しようが、断固戦うのですか。
局地戦ではとどまらず、全面戦争で中国と闘うのですか。国民もみんな賛成するのですか。
国土防衛を叫び、尖閣や北朝鮮を理由に防衛力増強をあおるなら、まずその前に教えてもらいたいことがある。
竹島は、日本固有の領土でしたよね。歯舞も色丹も日本の国土ですよね。
なぜ自衛隊が攻めていって国土を取り返さないのですか、教えてください。
なぜロシアや韓国とドンパチ戦って、わが国の領土だからと取り返さないのですか。
安倍さん、教えてください。

萬葉版画館 宇治美術館109

萬葉集6巻924
宇治敏彦制作板画 萬葉集6巻924
みよしのの きさやまのまの こぬれには ここだもさわく とりのこえかも(山部赤人)

(出会った人々)㉒                                          超高齢社会のトップランナーだった日野原重明さん  宇治 敏彦

 105歳で亡くなった日野原重明・聖路加国際病院名誉院長には小生が東京新聞代表を務めていた当時の2004年10月1日(飯野ホール)と20005年12月10日(日比谷公会堂)の2回、「東京新聞フォーラム」で講演していただいた。
 その時、印象に残ったことを書きとめておきたい。
1、「3年先まで講演依頼で手帖が埋まっているんですよ」と言って、実際に手帳を見せていただいた。親しかった瀬戸内寂聴さん(作家)が「あの方は亡くならないものだとばかり思っていた」(18日、東京新聞夕刊)と感想を漏らしているように、心身とも元気な大先生だったから恐らく今年の手帖も体調を崩されるまでは講演日程で埋まっていたはずだ。
2、ご高齢なので座って講演いただける机、椅子、固定マイクを当方で用意していたが、「私は立ってしゃべりたい」とハンドマイクで1時間余のお話をこなされた。それも棒立ちではなく、壇上で満席の会場を見回しながら右へ左へと活発に移動しつつ話されるのだった。
3、90歳過ぎて念願のオーケストラの指揮者を体験したことや高齢者のソフトボールチームを結成して監督になったことなど、身振り手振りで楽しく話されるので、聴衆の多くは驚きを隠せないと同時に、日野原講話のマジックに完全にはまっているように思えた。
4、一日の食事は「朝食はコーヒー、牛乳など。昼食はクッキー2枚、夜は御茶碗にご飯半分とおかず」。消費するエネルギーに対して「これで十分」というお話しだった。
5、日比谷公会堂には出入り口に階段がある。講演後に階段下までお見送りしたが、トントンと軽い足取りで御独りで身軽に降りていく姿は、とても90歳前半のお年寄りとは思えなかった。
 日野原さんの訃報が報じられた日に筆者は、たまたまフォーリンプレスセンターで開催された大内尉義・虎の門病院長(日本老年医学会理事長)の「高齢者は『75歳以上』」と題する講演会に参加していた。1956年のWTO提言の基づく高齢者の定義は「老年(高齢)前期(young-old)が65歳~74歳(現在は前期高齢者と呼ばれる)」「老年(高齢)後期(old-old)は75歳~89歳で後期高齢者」「超高齢者(extremely old)は90歳以上(超高齢者)」となっている。
だが「平均寿命が著しく伸びたことで、この定義は現状に合わなくなっている」というのが大内院長らの認識だ。男性だと64歳→80歳、女性だと68歳→86歳で、「高齢者、特に前期高齢者は、まだまだ若く活動的な人が多い」という。そこで大内先生らは「日本老年学会(甲斐一郎理事長)と合同で「高齢者に関する定義検討会」を2013年に立ち上げ、このほど新しい「高齢者定義」に関する提言をまとめた。
 それは「75歳以上を『高齢者』と定義する」というもので、具体的には「65歳~74歳は准高齢者(pre-old)」「75歳~89歳は高齢者(old)」「90歳以上は超高齢者(oldest-oldまたはsuper-old)」というわけだ。
 「准高齢者を新たに設定することは、最長寿国日本において元気で活動性の高い年齢層の幅が広がったことを世界に発信する契機になるだけでなく、国民の感覚に即した意識改革の契機になる」と大内先生(68歳)はいう。社会保障政策への影響をはじめ是正が必要な現実的問題を内包していることは確かだが、日本における超高齢化現象の加速を勘案すると、大内先生らの意見に国も自治体も真摯に耳を傾け、再検討する機会であろう。
 筆者が何よりも驚いたのは故日野原氏のような100歳以上の日本人が2012年は5万人だったのが2025年には30万人、さらに2060年には65万人になると推計されていることだ。若者1.2人で1人のお年寄り(65歳以上)を見る時代が2060年には来ると言われるが、そのうち60万人は100歳以上とは想像もつかない。
 まさに日野原重明さんは「超高齢社会・日本」のトップランナーないしはモデルみたいな人物だったのだ。先生の死を契機に私たちは「元気で活力に富んだ超高齢化国家」をいかに造っていくかを考える時を迎えている。

国民は不幸です    小榑雅章

安倍内閣の支持率がどんどん下がっている。
今日発表された時事通信の世論調査では、「・・・安倍内閣の支持率は前月比15.2ポイント減の29.9%となった。 2012年12月の第2次安倍政権発足以降、最大の下げ幅で、初めて3割を切った。不支持率も同14.7ポイント増の48.6%で最高となった」と報じている。
むべなるかな、と正直思う。あの尊大な、人を人とも思わぬ内閣総理大臣の態度には、国民は許しがたい思いで来たのだろう。だから、支持できない理由に・・・「首相を信頼できない」が前月比8.7ポイント増の27.5%と急増。前月と今月だけで14.9ポイント増となった。次いで「期待が持てない」21.9%、「政策が駄目」15.8%の順。・・・という結果だ。
だが、問題は、単純ではない。調査結果の続きを見ると、「政党支持率は、自民党が前月比3.9ポイント減の21.1%、民進党は同0.4ポイント減の3.8%。以下、公明党3.2%、共産党2.1%、日本維新の会1.1%と続いた。支持政党なしは同4.5ポイント増の65.3%となった」
なんじゃ、これは。自民党もわずか21%でダメだが、それに代わる受け皿がない。自民党に代わって、政権を任せたいところがない。民進党は、なんと3.8%。だ。100人のうち、たったの4人もいないのだ。この党には、もう国民は失望して、誰も頼りにしていない。
そして、支持政党なしは、なんと65.3%だ。3人に2人は、どこに投票していいか分からない状態なのである。
国民が期待しているのは都民ファーストの小池都知事ではない。別のアンケートでも明確なように、小池氏には、国政は期待していない。
国民は不幸だ。この不幸な状況を誰が打開してくれるのか。
特定秘密保護法、共謀罪、集団的自衛権、そして憲法9条改憲・・・この安倍政権と自民党に代わる勢力を結集してほしい。
支持政党なしは65.3%もいるのだ。民進党も、社会党も自由党もみんな解党して、国民の負託を受けられる民主的な党を結成できないものだろうか。でも出てくるのが、あの失望落胆した民主党幹部の面々では、国民は、投票できないなあ。
国民は不幸です。

出会った人々㉑ 宏池会を陰で支えた木村貢さん   宇治 敏彦

 池田勇人元首相の秘書を経て虎の門・自転車振興会館5階にあった宏池会(池田派)の事務局長になり、前尾繁三郎、大平正芳、鈴木善幸、宮澤喜一各氏などの歴代会長時代に政治資金集めや政治家のサポートなど陰で同派を支えてきた木村貢氏が6月16日、90歳で亡くなった。以前は毎年1月11日の鈴木善幸・元首相の誕生日に、鈴木氏を囲んで堀内光雄(元通産相、元宏池会会長)、瓦力(元防衛庁長官)両議員や木村氏を交えて担当記者OBで会食していたが、政治家側は皆、鬼籍に入ってしまい、集まるきっかけがなくなった。木村さんは、ここ数年、青梅方面の施設で家族と離れて療養していたが、訃報に接して筆者が思ったのは「池田、大平、鈴木、宮澤という4人の総理大臣や前尾という名衆院議長を輩出した名門派閥の時代は終わったなあ」という実感だった。
 10年前、木村氏の著作「総理の品格」(徳間書店)の出版記念会を前記のメンバー(善幸さんは2004年亡くなったが)で開催し、「2作目に期待して」と万年筆を贈った時には、照れくさそうにしながらも満面の笑みを浮かべていたキーさん(木村さんの愛称)の姿が浮かんでくる。
 その本には木村さんでなければ書けないエピソードがいくつも紹介されている。大平首相が1980年(昭和55年)の衆参ダブル選挙の最中に心臓病で70歳にして虎ノ門病院で亡くなった直後の秘話もその一つ。
 「大平の遺体を霊安室に移すまで、息子さんと一緒に病室にいたとき、何とはなしに私は枕の下を見た。すると、何かを包んだハンカチが出てきた。薄緑色のハンカチだった。何だろうと思って取り出して見ると、何かを記した紙のようなものが包まれている。気にはなったが、私はそれを開けなかった。それより――そうだ、これをお守りにしようと思った。そこで私は、それを家に持って帰った。何か困ったことが起こったとき、このハンカチに相談すれば大平先生の声が聞けるのではないか」
 私も個人的にキーさんからこの話を聞いたことがあるが、その時はハンカチでなくスカーフだった。ともあれ病人を励ますために誰かから贈られたものであろう。志げ子夫人以外の女性からだったろうと推察される。何が書いてあったのか。「総理の品格」では「そのハンカチはいまも持っている。わが家にある。だが、開けたことは一度もない。お守りだから中に何が入っていようとかまわない」と付記している。でも開けなかったとは信じがたい。中身について洩らさなかったのは生涯、政治家秘書に徹した木村貢の生き方そのものといえよう。
 木村さんは画家の平山郁夫氏(故人)と広島の小学校で同窓だった。そのせいで「家には平山さんからいただいた絵が一枚あるのです。我が家の宝物です」と自慢していた。
 「宝物」と「お守り」の話をもっと聞きたかったが、それも不可能になった。

萬葉版画館 宇治美術館108

萬葉集18-4114
宇治敏彦制作板画 萬葉集18巻4114
なでしこが はなみるごとに をとめらが ゑまひのにほひ おもほゆるかも(大伴家持)

「終活」への準備運動    宇治 敏彦

 今年9月で満80歳を迎える小生は、そろそろ「終活」を考えるべき時期なのだろうか。表題に「『終活』への準備運動」と書いたが、そもそも「終活」が「人生の終末に向けて自ら準備すること」を意味する表現だから、「死への準備の準備」みたいな題で、こんなタイトルを即座に付けること自体が「ああ、まだ現世に未練を持っている証拠だなあ」と思ったりする。
 やっている「終活」準備を列記してみよう。
1、本の整理。
自宅とプレスセンターの事務所にある蔵書のうち政治関係で、小生が執筆活動に使わなくなったもの(著名政治家の個人全集など)を順次、知り合いの政治学者数人に差し上げている。衆参両院議員選挙、統一地方選挙のデータ類も数年内には使い終わると思われるので、使用後は国政選挙・地方選挙を研究している別の学者に贈呈することを約束した。
問題は、刊行されている出版物以外のデータ類である。筆者は政治部の駆け出し記者時代に内閣の憲法調査会(高柳賢三会長)を担当していたので、その当時のスクラップやデータも一部残っている。たとえば同調査会のメンバーたちに出した憲法改正の是非に関するアンケート調査で、中曽根康弘元首相をはじめ当時、同調査会の委員をしていた人達が自筆で書いてきた回答文が残っている。一度、獨協大学の政治学者にお譲りしたのだが、戦後70年とか日本国憲法施行70年といった節目の年を迎えて、テレビで憲法問題を何回も取り上げているドキュメンタリー工房の鈴木昭典代表(86歳)や青山学院大の憲法学者などから「ぜひ見せて欲しい」というので、現物を獨協大教授から戻していただいたケースもある。いずれまた再度差し上げるつもりだが、この種の生データはどうしたらよいか迷っている。
2、著作・スクラップ・写真の整理。
自分の著作は共著も含めると20冊以上になり、最低部数は保管している。記事スクラップも支局時代のものを含めて最低限にとどめているが、これも本棚のかなりの部分を占めている。写真は一応、家族もの、社内関係、社外の交友、海外取材などに分類したが、ゴルフの写真が結構残っている。さて、これらはどうするか。家族関係は家の者が扱いを決めるだろうが、小生自身のジャーナリストとしての活動の足跡は、家族には残されても持て余す存在だろう。
3、木版画の整理。
学生のことから木版画を彫ることを趣味としてきたので自宅と事務所に彫り終えた版木がかなり残っている。近年は万葉集版画を、この「埴輪」のほかに「暮らすめいと」(東京新聞の関連紙)、「メールマガジン・オルタ」(加藤宣幸氏発刊)、「ENERGY for the FUTURE」(エネルギー関連の雑誌)に掲載してもらっているので版木の数もまだ増え続けるだろう。それを処分する気にはまだなれない。
4、事務所
日本プレスセンタービルの8階にはキュービクルという小部屋中心の事務所が並んでいる。筆者は自宅に本や資料を収容しきれなくなって1995年11月からプレスセンターに小部屋を借りている。仕事場としては快適だが、最近は同じ階に部屋を借りていた元NHKのU氏とか元日経記者のT氏とか知遇を得ていた記者たちが高齢などを理由に引き払い、寂しさを感じている。「自分はいつまで借りていようか」と時々考えるようになった。

 そのほか背広など衣類や本棚や机など家具類は、小生の死後に家族が処理してくれるだろうが、なるべくならあまり面倒を掛けたくないので、余計なものは買わないように心掛けている。
 東京新聞が6月10日付け朝刊「考える広場」で「終活しますか?」を特集した。その中で倉本聡さん(脚本家)は、子どもがいないので「ほっておくと法定相続ということになり、それにはまらないものは国に没収されてしまう」というので、真剣に終活を始めたと明かしている。「年を取るにつれ、今まで身に付いてきたものをどんどん捨てている感じはありますね。一首の断捨離です。平たくいえば、お客にこびる姿勢じゃなくて、自分がおかしければいい」
 一方、仏教思想家ひろ さちさん(80歳)は、終活は何もしていないという。「子供には『お父さんが死んだら、お骨はどうしてもいいよ』と言っています。死んだ瞬間に極楽浄土に行き、阿弥陀仏の弟子になると信じています」
 死に至る過程や死を迎える覚悟は、人それぞれだから、どれがベストの道というのは難しい。要は、いつ死が訪れても後悔がないよう毎日を真剣に生きること。それが私の「終活」だと思っている。

森友・加計選挙をやろう    小榑雅章

日本人の3割しか知らないことを知っていると、ハナタカだそうだが、「李下に冠を正さず」という言葉の国民認知度は7割以上と聞いた。国民の常識である。
加計学園認可については、安倍首相は「自分は一切指示も関与していない、印象操作だ」と、しれっと胸を張っているが、例外中の例外でお友達だけに認可している事実を見れば、直接強権発動などはしなくても、「李下に冠を正した」ことは、誰がみてもわかる。為政者たるもの国民を馬鹿にしてはいけない。
それを恥ずかしげもなく、印象操作だなどと言いはる首相を戴いている日本国民は不幸だ。
これまでは、それこそ安倍さんの手前勝手な印象操作で支持率が高いようだが、いつまでも国民もだまされてはいない。森友・加計選挙をやってみようではないか。

わが日本には「共謀罪」をもつ資格はない   小榑雅章


テロ等準備罪に名前を変えた「共謀罪」も衆議院を通過してしまいました。
諸外国にはみんな「共謀罪」的な法律がある、日本だけがないから、国際条約の批准ができない、と政府は言っています。
そこで一つ伺いたい。戦前の日本には、治安維持法という法律があり、多くの無実の人々が言論・思想を弾圧され、投獄、獄死させられた歴史を持っている、諸外国は、こういう歴史を持っているのですか、と問いたいのです。
かつてのわが日本では、戦争に批判的なことを、茶呑み話で少しでもささやいただけで、治安を脅かしたと警官にしょっ引かれたのです。
その結果、3百万人を越える同朋たちが亡くなりました。近隣諸国にもその10倍ともいわれるほどの被害を与えてしまいました。
残念ながら、私たち日本には言論も思想も封殺し、多くの人々を塗炭の苦しみに突き落とした歴史があるのです。他の諸外国にはない、負の歴史があるからこそ、すこしでもその恐れのあるような共謀罪・テロ等準備罪に反対するのです。
他国では、諸外国では、という論理は、日本には通用しないのです。

萬葉版画館 宇治美術館107

萬葉集6巻914
宇治敏彦制作板画 萬葉集6巻914
たきのうへの みふねのやまは かしこけど おもひわするる ときもひもなし(車持朝臣千年)

安倍首相の改憲「曲球(くせだま)」にどう対応すべきか   宇治 敏彦

 「安倍首相発明の改憲案には意表を突かれた」(文芸評論家・斉藤美奈子さん。10日付東京新聞朝刊「本音のコラム」)、「今回の9条改憲提案は、安倍さんが投げた曲球だと思います」(国際政治学が専門の加藤朗桜美林大学教授。9日付朝日新聞朝刊)などなど、安倍首相が5月3日(憲法記念日)の読売新聞紙上で明らかにした「改憲構想」が各方面に大きな波紋を投げかけています。
 安倍発言の骨子は「東京五輪・パラリンピックが開催される2020年施行を目指して①9条(戦争放棄)の1項、2項を維持したうえで、自衛隊に関する条文を追加する②教育無償化に関する日本維新の会の提案を歓迎する」というものです。
 なるほど「曲球」、あるいは「癖球」ですね。なぜかといえば、第一に連立を組んでいる公明党の「加憲」案や野党第一党の民進党内にもある「自衛隊明記論」(たとえば前原誠司氏の「9条3項、あるいは10条で自衛隊について明記する案」)などに配慮していること。
第二に、世論の取り込みのために「9条1項および2項には手をつけない」と明言していること。そして第三には「教育無償化」など9条以外のテーマでも日本維新の会など野党の改憲案に同調していることです。
 「読売新聞はさすが腰巾着、9日の社説でも『各党は、生産的な改正論議を展開してもらいたい』などと、ふんぞり返って書いている」と前掲の斉藤さんは指摘しますが、時事通信OBの杉浦正章氏は毎朝発信しているブログ「今朝のニュース解説」(11日)で次のように言及しています。
 「安倍が唐突に見える決断を下した背景を見れば、読売が絡んでいるという見方が濃厚だ。読売OB筋によると『どうもナベさんの進言が利いたらしい』とのことだ。読売新聞グループ本社主筆渡辺恒雄が首相に最近進言したというのだ」
 読売は既に同社としての「憲法改正試案」を作成(1991年以来、数回にわたり紙面で公表)しており、その第12条で国防に関して(1)自衛のための軍隊の保持(2)その最高指揮官は首相(3)国民に軍隊参加を強制しない、と規定しています。自公連立で衆参両院において3分の2を占めているうちに「改憲に着手すべきだ」と渡辺主筆が安倍首相にハッパをかけるのも十分あり得ることでしょう。安倍3選が可能な情勢になり、しかも2020年の東京五輪のお祭り騒ぎと一体化すれば、憲法改正という自民党結党以来の「宿題」も実現できるとあおったかもしれないと、筆者は想像しています。
 自民党内には「行政の長たる総理大臣には、もう少し慎重であっていただきたかった」(船田元・自民党憲法改正推進本部長代行)、「戦力を保持しないという9条2項が生きていては、自衛隊が警察なのか軍隊なのか答えが出ない」(石破茂・前地方創生相)など安倍首相の改憲発言に懸念、ないし異論をはさむ向きもあります。しかし、「当面9条改正は考えない」としてきたハト派集団の宏池会会長・岸田文雄外相は「いろいろな意見、考え方が示されるのは議論の活性化という点で意味がある」と安倍発言に困惑の表情ながら全否定の態度は示していません。やはり「安倍一強政治」の中で総理総裁に歯向かうことは与党幹部、主要閣僚といえども至難というのが現状のようです。
 野党第一党の民進党も前記のように9条改憲論者を党内に抱えて蓮舫代表が身動きできない状況です。
 筆者は、今日のようなナショナリズ再台頭の時代こそ日本は9条改憲をステップにする「武の政治」に偏るのではなく、戦後70年守られてきた平和憲法の「文の政治」による英知とリーダーシップを発揮すべきだ思います。
 幸いフランスの大統領選挙では反EU(欧州連合)を訴えた極右・国民戦線のルペン女史ではなく、EU統合推進派の中道・独立系の若手政治家(39歳)マクロン前経済相が勝利したことで、ヨーロッパ分裂の危機や右派台頭は一旦回避されました。メルケル独首相やEU首脳が喜んだのも無理はありません。また韓国の大統領選挙でも革新系野党「共に民主党」の文在寅(ムン・ジェイン)氏が対抗馬2人に大差をつけて当選しました。文大統領は10日、就任演説を行い、「私の心は統合と共存の新しい世の中を切り開いていく青写真で満ちている」「条件が整えば、平壌にも行く。朝鮮半島の平和定着のためなら、私が出来る全てのことをする」などと決意表明しました。
 この2つの大統領選結果に見られるような「文の政治」志向がいま地球規模で求められているのです。安倍首相の「9条改憲提案」に対して私は次の3点を逆提案します。
1、 トランプ米大統領の「アメリカ第一主義」に代表される世界的な「自国中心主義」の台頭に歯止めをかけ、冷戦終結後の「国際協調主義」機運を復活させるために、日本は「不戦の誓い」である憲法9条(戦争放棄)の精神に基づいて戦争・紛争には関係ない「経済」「技術」「人的支援」などの側面で、こうした協力が出来るという「日本の世界サポート計画」をまとめ、各国に提示してはどうだろうか。
北朝鮮に対しても、同国が核開発など軍事面での威嚇行動を停止すれば、経済的支援の用意があることを具体的に表明してはどうか。
2、 いま世界が「自国主義」に走っている底流にあるものとして「貧富の格差」「未来への不安」「人種差別」などがあります。それらの解決に向けて日本が「1億総活躍社会」規模でなく「地球総活躍社会」への提言やその推進のための組織作りに旗振り役を買って出てはどうだろうか。
3、 「過激派テロ」「難民・移民の急増」という問題が解決しない限り世界的な安定は至難の業です。「視線を上げて世界、未来を見つめながら、どういう国にしていきたいのか、平和で安全で繁栄している日本をどう守っていくのか、どう理想に近づけていくのか、それぞれが考える憲法論議にしていきたい」(3日の読売新聞での安倍首相インタビューでの発言)のであれば、まずは戦後70余年にわたり平和憲法の下で努力してきた日本の実績を世界に喧伝し、「平和憲法」イコール「国の発展」であるとの「模範」を誇示してはどうか。
 論客の田中秀征氏(元経済企画庁長官)は安倍提案への疑問として「9条の1項、2項を残しつつ、自衛隊を明文で書き込むのは明らかに矛盾」(9日付朝日朝刊)と強調しています。その通りですが、その点を追及するだけでは「安倍流曲玉」を跳ね返せないでしょう。条文表現の問題という視点を超えて、「不戦国家日本」という信念を貫く度胸や高い理念、具体策を提示することこそが安倍首相への返球になるい違いありません。

安倍さん、9条だけでなく15条も25条も憲法改正したら   小榑雅章

安倍首相は憲法記念日の3日に、憲法を改正すべき項目として9条を挙げて「1項、2項を残しつつ、3項に自衛隊を明文化し、2020年を新しい憲法が施行される年にしたい」との考えを示した。その理由として、憲法9条については「多くの憲法学者が、自衛隊は違憲としている。それを放置するのはあまりにも無責任だ」として、憲法を改正して自衛隊の根拠を9条に追加して現実に合わせてあげるのだとの考えを強調した。
「憲法学者が、違憲とか違憲状態というのだから、改正して現実に合うように憲法を改正しなければならない」というのだとしたら、改正しなければならない条項は他にもいろいろある。
たとえば、第十五条。
  公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。
  2 すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。
国民の誰かが、財務省の役人や区役所の窓口担当者を「選定したり、罷免した」ことなど、あるだろうか。また「全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない」なんて、だれも信じられないだろう。国会議員の多くは、業界団体、地方地方の要望を背負って当選してくるのだから、「それはダメだ、一部の奉仕者ではない」といわれても、へらへら笑うしかないだろう。
教育勅語教育に感激して、首相夫人が名誉校長になったら財務省も特例をもうけてサービスをする、野党に攻められても、安倍一強のなかで、誰も異を唱えないで下を向いている。だれも憲法違反だ、けしからん、憲法を改正して「公務員は全体の奉仕者ではなく、一部の奉仕者である」とか、「公務員の選定も罷免も出来ません」と改訂しよう、などとは叫ばない。
 第二十条はどうだ。
 この、第3項 「国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない」と明記されている。しかしそれにも関わらず、総理大臣も、大臣たちも公務員たる国会議員の多くが、靖国神社という特別な宗教団体に公式参拝したり榊を奉納したりという宗教的活動をしているのは、憲法違反だと憲法学者もいっている。だから「国及びその機関は、靖国神社は特別に宗教的活動よろしい。公務員も参拝してよい」と憲法改正をすべきなのだが、安倍首相はこのことは何も言わない。
 もっとも重要なのは、第二十五条だ。
  第二十五条 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
  2 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
最大の問題は、この「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」と日本国憲法に明記されているこのことが、この日本という私たちの国で守られているか、ということだ。
 つい先日、7日の夜中に福岡のアパートが全焼し、6人が亡くなった。違法の木造アパートにでも住まわざるを得なかったほど困窮した人たちだったと言われている。健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有するような状態ではなかったのだ。
 母子家庭で、保育所がないから勤めに行けない。母子が餓死寸前で見つかったと言う報道もあった。
 日本人の約6人に1人が相対的な貧困層という調査もある。この調査で生活意識が「苦しい」とした世帯は59.9%だった。貧困率が増加しているのは、長引くデフレ経済下で子育て世帯の所得が減少したことや、母子世帯が増加する中で働く母親の多くが給与水準の低い非正規雇用だと分析されている。
 「すべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と憲法にあっても、なおこういう現実がそこにある。
 現実がこうだから、この二十五条を「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有しない。一部の貧乏人は仕方がない」と、憲法改正しようと安倍さんは提案するだろうか。
  憲法というのは、国民の「希望」だ。「目標」だ。「願い」だ。それがあるからその目標に少しでも近づこうと政治も国民も頑張るのだ。「戦争はもう絶対にしない」というのが国民の希望なのだ。
 それをやめて、現実だからそれに合わせるというのでは、それは憲法ではない。そこにはひどい現実しかない。それを少しでもなくそうと言う「希望」も「目標」も「願い」もなくなってしまう。
 安倍という人は、国民の「希望」も「目標」も「願い」も奪い去ろうと言うのか。

あなたの息子を戦死させていいのか―中内功の原点    小榑雅章

 昭和55年2月7日、京都の国立京都国際会館で関西財界セミナーが行われていた。折から、ソ連がアフガニスタンに侵攻していて、基調講演を行った日向方斉関西経済連合会会長は、ソ連の脅威を前提に徴兵研究の必要性を主張した。
 「日本は、本格的な局地紛争の抑止力を保つ必要がある」と説き、「国民一人一人が国を守る心を育成するべきだ」と問題提起した。
 その時、会場から「異議あり」という声を上げたのが、ダイエーの中内功社長だった。第二次世界大戦で一兵卒として召集され、フィリピンの山の中で米軍と闘い、手榴弾で全身に負傷し、九死に一生を得た経験があった。戦争だけはやってはいけない。「あなたは息子さんが戦争に行って戦死してもいいんですか」とつめよった。さらに「わが国は対米追随ではなく、ソ連を仮想敵国とみるべきではない。日本は貿易などで東西の架け橋になるべきだ」と反論した。
 これに対し、日向が激しく反論。さらに他の参加者からも国防費拡張を支持する発言や「憲法を改正して自衛隊を国防隊として内外に認識させるべきだ」などという意見が相次いで、中内さんは孤立した形になった。それえでも一歩も引かなかった。
日向会長には、公私にわたってお世話になっていた大先輩だったが、私はひるまず、主張した、戦争だけは絶対にいかん、と私は何度も中内さんから教えられた。
 いま、安倍首相は憲法改正に前のめりになっている。自分が歴史をつくると意気込んでいる。先週の憲法記念日の5月3日には、「2020年までに憲法9条に自衛隊を書き加える改正を行なう」と言い出した。
 北朝鮮が攻めて来たらどうする、ミサイルを撃ち込まれたら大変だ、尖閣列島を中国に取られていいのか、と国民の恐怖をあおって軍備増強と憲法改正を実現しようとしている。
 本気で、北朝鮮が攻めてくると言うのか、北朝鮮ときちんと話し合ったのか、北朝鮮が何を求めているのか、正面から話し合ったのか。中内さんの言うように「日本は貿易などで東西の架け橋になるべきだ」とは考えないのか。
日本はトランプ大統領の尻馬に乗って、憲法改正の機運に利用しようとしているが、国民を目くらましにし、間違った誘導をしてはならない。
 戦争は絶対にダメなのだ。
 先の戦争で、310万人もの犠牲者を出したことを忘れてはならない。

萬葉版画館 宇治美術館106



宇治敏彦制作板画 萬葉集3巻287
ここにして いへやもいづち しらくもの たなびくやまを こえてきにけり(石上卿)

私たちはいま騙されています    小榑雅章

原稿を書いたり、講演したりして謝礼を頂くことがあります。
その際、必ずマイナンバーの申告を求められます。しかし、私は断ります。もしどうしてもマイナンバーを書かなければならないのなら、原稿料も謝礼もいりません、と伝えます。
それで引っ込むところもあれば、会社の方針なのでなんとかお願いします、と担当者が泣きついてくるところもあります。担当者には気の毒なのですが、でも基本的に私は申告しません。
私は「暮しの手帖」の花森安治編集長に薫陶をうけてきましたが、花森さんだったら、絶対にマイナンバーに反対し、記入などしないと思うからです。花森さんは、国家の都合のよい、国民を管理するようなことには、絶対反対でした。郵便番号ですら反対でした。
マイナンバーなど、まさに庶民の国家管理です。国家の都合のよい方針を押し付け、いつのまにか国民のいのちや暮しをそこなうような国に向かっています。
前の戦争は、何百万の国民を犠牲にし、日本中を焦土と化して国民を塗炭の苦しみに突き落としましたが、国民はそれが聖戦であり正義の戦いだと教えられ、信じ込まされ、必死に戦い我慢してきました。それがみんな嘘でした。間違っていました。国民は管理され、いつの間にかだまされてきたのでした。もう二度とあのような戦争を繰り返してはならないのだ、と花森さんに厳しく教えられました。
いま、私たち日本の国民は、再びだまされ信じ込まされつつあります。
テロが起きたら大変だ、オリンピックをめちゃめちゃにされたらどうすると言われたら、それはそうだとおもい、共謀罪も必要だ、秘密保護法も仕方がない、という人も少なくないでしょう。北朝鮮のミサイルが日本に向けられて発射された、さあ防衛力を増強しなければならない、安保関連法強化だと叫ばれるとそれもそうかと思うでしょう。教育勅語の、親を大切に、兄弟仲良くがなぜ悪い、と居直り、閣議決定されるとそれは反対できないという人もいます。
共謀罪という名前が問題だと言うと、テロ等準備罪、と名前を変えて、オリンピックの対策に絶対必要だと宣伝をする。海外で起こっているテロのニュースを聞けば、やはりテロ防止法は必要かと、国民は思ってしまう。しかし実態は共謀罪で、私たちの心の中まで縛ろうとする。お上の意志に添わぬことが犯罪だということです。
安倍政権になって、もっともらしい理屈をつけて、つぎからつぎと空恐ろしい法律制定や決定を続けています。
これが既成事実になり、国民も違和感がなくなり、当たり前だと信じ込まされつつあるのです。そんな政府の支持率が50%以上もあると言うのだから、国民はもうだまされている、こわいです。

萬葉版画館 宇治美術館105

萬葉集5巻803

宇治敏彦制作板画 萬葉集5巻803
しろかねも くがねもたまも なにせむに まされるたから こにしかめやも(山上憶良)

共謀罪も秘密保護法も安保関連法も教育勅語も    小榑雅章

原稿を書いたり、講演したりして謝礼を頂くことがあります。
その際、必ずマイナンバーの申告を求められます。しかし、私は断ります。もしどうしてもマイナンバーを書かなければならないのなら、原稿料も謝礼もいりません、と伝えます。
それで引っ込むところもあれば、会社の方針なのでなんとかお願いします、と担当者が泣きついてくるところもあります。担当者には気の毒なのですが、でも基本的に私は申告しません。
私は「暮しの手帖」の花森安治編集長に薫陶をうけてきましたが、花森さんだったら、絶対にマイナンバーに反対し、記入などしないと思うからです。花森さんは、国家の都合のよい、国民を管理するようなことには、絶対反対でした。郵便番号ですら反対でした。
マイナンバーなど、まさに庶民の国家管理です。国家の都合のよい方針を押し付け、いつのまにか国民のいのちや暮しをそこなうような国に向かっています。前の戦争は、何百万の国民を犠牲にし、焦土と化して国民を塗炭の苦しみに突き落としましたが、国民はそれが聖戦であり正義の戦いだと教えられ、信じ込まされてきました。もう二度とあのような戦争を繰り返してはならないのだ、と花森さんに厳しく教えられました。
いま、私たち日本の国民も、だまされ信じ込まされつつあります。テロが起きたら大変だ、オリンピックをめちゃめちゃにされたらどうすると言われたら、それはそうだとおもい、共謀罪も必要だ、秘密保護法も仕方がない、という人も少なくないでしょう。北朝鮮のミサイルが日本に向けられて発射された、さあ防衛力を増強しなければならない、安保関連法強化だと叫ばれるとそれもそうかと思うでしょう。教育勅語の親を大切に、兄弟仲良くがなぜ悪い、と居直り、閣議決定されるとそれは反対できないという人もいます。
安倍政権になって、もっともらしい理屈をつけて、つぎからつぎと空恐ろしい法律制定や決定を続けています。
これが既成事実になり、国民も違和感がなくなり、当たり前だと信じ込まされつつあるのです。
そんな政府の支持率が60%もあると言うのだから、国民はもうだまされている、こわいです。

「大宏池会」構想は実現可能か    宇治 敏彦

  故池田勇人元首相が結成した自民党内の派閥「宏池会」がことし結成60周年を迎えた。池田氏を筆頭に大平正芳、鈴木善幸、宮澤喜一、麻生太郎各氏といった総理大臣や河野洋平自民党総裁などを輩出してきた名門派閥で、現在は岸田文雄外相が会長を務めている。岸田派は46人で、平成10年に分裂した麻生派(麻生太郎副総理兼財務相)が45人。さらに自転車事故で大怪我をして現在リハビリ中の谷垣禎一前自民党幹事長を中心にする元宏池会系グループが約20人いる。こうした宏池会系の議員たちの間で「60年前の原点に戻って大同団結してはどうか」という声が出ており、「大宏池会」が実現するかどうかが政界で話題になっている。もし「大宏池会」が出来れば、安倍首相の出身派閥・細田派(97人)を抜く100人超の最大派閥になるだけに安倍総裁の任期延長にも大きく影響するだろう。
  筆者は昭和30年代後半に池田総理番から政治記者としてスタートし、前尾派、大平派、鈴木派、宮澤派と長く宏池会を担当したOBとして宏池会グループの今後には無関心でいられない。
  「宏池会」とは一体どういう政治集団で、何を目指してきたのか。そして現在の岸田派を中心とする上記グループは池田元首相が目指した政治路線をきちんと引き継いでいるのかなどについて論考し、果たして「大宏池会」が実現するかどうかを展望してみよう。
  「高光の榭(うてな)に休息して宏池に臨む」。後漢の碩学・馬融の言葉から陽明学者・安岡正篤氏が命名した宏池会という派閥は、池田氏が中心になって昭和32年(1957年)に結成した政治集団だ。アメリカ大使館前の短波放送ビル5階に事務所を構え、事務局長には旧大蔵省で池田氏と同期だった田村敏雄氏(非議員)が座った。昭和33年5月の第28回総選挙では自民党が287議席(社会党は166議席)を獲得し、第2次岸信介内閣がスタート。55人を当選させた宏池会も大派閥で、池田氏は当然、主要閣僚に起用されるものと想定していた。ところが岸内閣は岸派、佐藤(栄作)派、河野(一郎)派、大野(伴睦)派が主流4派で、池田派は非主流だったこともあり、同氏には無任所国務相というポストしか回って来なかった。池田氏は当然、面白くなかったに違いない。岸氏は戦前からのエリート商工省官僚OBであるのに対して池田氏は大蔵官僚OBとはいえ難病で長く休職していたこともあって自ら「赤ゲット官僚」「赤切符組」(非エリート)というほどエリート官僚とはほど遠く、税の専門家という程度で、岸首相とは肌合いも人生観も大きく違っていた。
  岸内閣は警職法改正案に続き日米安保条約の改定を強行し、池田勇人、三木武夫、灘尾弘吉の3氏が同年末、閣僚辞任という行動に出た。岸首相は大野伴睦氏に「次は君に譲るから」という趣旨の空証文を書いて政権維持を図ろうとしたが、国会議事堂を幾重にも取り囲む「岸を倒せ」「アンポ粉砕」の大規模デモに抗しきれず、国会での新安保自然承認と引き換えに退陣した。それに先立ち1960年7月14日に行われた後継自民党総裁選挙には池田氏のほか石井光次郎、藤山愛一郎、松村謙三各氏も立候補し、決選投票で池田氏が石井氏を破り、新総理・総裁となった。ここで筆者が感心するのは、宏池会という派閥が有効に機能し、池田氏が前尾繁三郎、大平正芳両氏らの助言・苦言を抵抗なく全面的に受け入れたことである。「寛容と忍耐」「低姿勢」という基本姿勢をはじめ「総理大臣在任中はゴルフにいかない」「昼食はカレーライス」「料亭通いはしない」などなど。池田勇人という政治家がもともと謙虚で低姿勢な人物でないことは、それまでの国会での失言(「中小企業の一つや二つ倒産しても」「貧乏人は麦飯を食え」)でも明らかで、大平、宮澤といった知恵者揃いの元秘書官たちが考案したアイデアだった(ただ後年、池田氏のお嬢さんの一人から聞いた話では「麦飯発言をした昭和25年当時、我が家では実際に麦飯を食べていました」という)。池田氏は合理主義者の側面が強く、池田番記者にご馳走してくれるときでも「残したらもったいないよ。料金は同じなんだから」と言っていた。これは拙著(「実写1955年体制」第一法規)にも書いたことだが、1962年に開業したばかりのホテルオークラで記者団との忘年会をやった時も「さあ全部食べていこうじゃないか。まだ大分残っているよ。値段は同じなんだから」とだみ声で急き立てられたことを覚えている。師弟相通ずるというか、子分の大平官房長官(当時)にも同じようなところがあって、駒込の大平邸で夜回りを終わると、「じゃあ、またな」といって応接室や玄関の電灯を自ら消して回った。
  「所得倍増政策」が池田内閣の公約だった。当初は「月給2倍論」と言っていた。しかし、「月給」というとサラリーマンなどに限定されることから、日本全体の国民所得(名目GNP)を10年で倍増するという政策になった。その理論づけは木曜会という識者の勉強会で行われた。元大蔵官僚の田村事務局長が集めた主要メンバーは下村治(日本開発銀行理事)、星野直樹(元満州国総務長官)、高橋亀吉(経済評論家)、平田敬一郎(日本開発銀行総裁)各氏らだった。実は岸信介氏も首相時代に福田赳夫農林大臣(当時)の入れ知恵で「所得倍増10年計画」を吹聴したことがあった。しかし、これは途中で計画倒れに終わった。
  池田首相は1960年9月の記者会見で所得倍増計画について次のように語っている。
 「10年間に国民所得を倍にするには1年に7.2%の経済成長が必要だ。過去5年間の成長率は年9%なので十分達成可能だ」。そして現実には5年で倍増が達成されたのだった。さらに完全失業率1.1%、有効求人倍率0.8%と戦後の夢であった「完全雇用」が1964年には達成し、国際経済面では日本のOECD(経済開発協力機構)加盟やIMF(国際通貨基金)8条国移行も実現したほか、池田・ケネディー日米首脳のヨット会談を経て日米貿易経済合同委員会が定期的に開催されるようになった。
  池田首相が喉頭がんで退陣した1964年(昭和39年)には東海道新幹線や東京モノレールの開業、名神高速道路の開通、そして東京オリンピックの開催があり、日本人の多くは「経済大国」入りを実感した。「安保反対」デモでの東大生・樺美智子さんの死に象徴される暗い時代の風景から「所得倍増」で日本人の気持ちを明るく一転させた池田政治は、高く評価されてよい。
  もともと戦後政治には吉田茂政権に代表される「保守本流政治」と、鳩山一郎、岸信介政権に代表される「戦後脱却・独立重視政治」の流れがあった。前者は①親米②軽武装③自由主義経済、の路線であり、後者は①憲法改正②反共③自主防衛強化、の路線だった。
  その後の歴代政権を振り返ってみると、1955年体制時代(自社2大政党時代)から西暦2000年の小渕恵三内閣までは圧倒的に前者が優勢だった。だが小渕氏の死後は森喜朗、小泉純一郎、福田康夫、安倍晋三内閣と後者の潮流が優勢となって、今日まで続いている。安倍首相は米国のトランプ大統領と蜜月関係を構築し、当分は「安倍一強」が続く情勢だ。今年は小泉政権の在職期間も超え、さらに2020年の東京オリンピックも見据えて総裁任期の延長を活用し3選に挑む可能性も大きい。
  最近の「大宏池会」構想は、当然こうした政治状況を踏まえての動きだが、肝心なことは誰がその「大宏池会」を引っ張っていけるかである。候補は3人いる。麻生太郎副総理兼財務相、岸田文雄外相、谷垣禎一前幹事長。だが、このうち谷垣氏は長期入院中で、残るは麻生氏か岸田氏だ。間をとって「麻生会長、岸田総理総裁候補」という案も浮上している。年齢的にも政治キャリア上も、麻生氏が派閥の会長で、そのかわり総理総裁候補は岸田氏というのは、確かに100人の大派閥となれば一つの形がつくれるだろう。
  問題は、その岸田氏に対して「血筋は申し分ないが、総理総裁を目指そうという覇気が感じられない」「安倍首相に従順で、禅譲狙いというのではいかがなものか」「大宏池会を率いていくだけの実力が備わっているのか」など厳しい声が聞こえてくる。最近の週刊誌(週刊新潮)でも「総裁選に意欲の岸田外相が官邸の外務省イジメに白旗」という記事を掲載していた。日米首脳会談の日程調整や韓国の慰安婦像撤去問題なども官邸主導で岸田外相は蚊帳の外に置かれているというのだ。岸田氏の知人が「ポスト安倍への意欲を聞いたら『永遠の総裁候補だったりしてー』と答えたので、思わずズッコケた」と漏らしている(同誌)。
10年前に宏池会が「宏池会の50年 そして未来へ」という冊子を発行した。その中の若手議員座談会で岸田氏は、こう言っている。
  「良質な中間層の厚みは、民主主義社会の基本です。それがないと民主主義は育たないので、しっかり考えていかなければならない。経済の拡大を図りながら、具体的な政策でできるだけ格差を感じさせないような制度を作っていく」
 まさに吉田茂の系統を引き継ぐ「保守本流」の理念である。最大の問題は、理念は良し、されど政治指導者としての岸田文雄氏の「存在感」は何処にということであろう。祖父も父も国会議員経験者で、故宮澤喜一元首相ら宮澤一家とは縁戚という血筋の良さから、ひたすら安倍首相からの禅譲待ちとの姿勢では政権は取れないだろうし、「大宏池会」も実るまい。すべては岸田氏本人が戦闘モードに大変身するかどうかにかかっている。
  また最近の情報では、「大宏池会」構想の陰の主役は古賀誠・元自民党幹事長(宏池会名誉会長)で、同氏の狙いは同じ九州の同志、麻生副総理の「ポスト安倍狙い」という復帰作戦だというから、魑魅魍魎の工作が背後ではなされていて、先が読めないところだ。
 (この原稿は「安保研リポート」3月24日号に掲載したものを一部手直ししました)

萬葉版画館 宇治美術館104

萬葉集3巻296
宇治敏彦制作板画 萬葉集3巻296
いほはらの きよみのさきの みほのうらの ゆたけきみつつ ものもひもなし(田口益人)

忖度などではない、武器だ。強制だ    小榑雅章

いま話題になっている森友学園騒ぎで、忖度(そんたく)という言葉が、やたらと飛び交っています。
「忖度」を辞書で引くと、「他人の気持ちを推し量ること」と書いてあります。
相手の気持ちを推し量って、「この人にはこういうことをしてもらいたいのだから、その気持ちに答えてあげなければ」と、勝手にそうして上げる、ということです。ということは、森友学園が、不当に認可され、異常に安い価格で国有財産が売却されたのは、財務省や国交省、文科省や、大阪府のお役人たちの忖度だ、ということになるのでしょう。
いつも尊大で、えらそうにしているお役人たちが、いったい、誰の気持ちを忖度しているのでしょうか。よほど怖い人、自分たちの生殺与奪の権力のある御方でなければ、お役人たちは忖度などしないでしょう。得体のしれない籠池理事長などのことなど、歯牙にもかけないはずです。その、こわーい相手は、誰でもわかっているように、安倍内閣総理大臣であります。
首相夫人の安倍昭恵先生が森友学園の「瑞穂の国記念小学院」の名誉校長なのですから、忖度して当然なのです。いまでは、名誉校長は辞任なさったようですが、こ小学校設立が認可され、国有地が格安で認可される異常な過程では、安倍昭恵名誉校長の時期でした。
安倍首相は、一切関与もしていないと明言しています。相手が勝手に思ってやったことは、知るはずがない、止めることもやめさせることも出来るはずがないではないか、と開き直っています。
国会でもここは押し問答で、自分は何ら関与していないと言い張る首相は、胸を張っています。
前置きが長くなりましたが、ここで申し上げたいのは、じつはこの点なのです。
忖度などと、わけのわからないあいまいな言葉で追及しても痛くもかゆくもないから、平気で胸を張って強弁していられるのです。
しかし、社会心理学からみたら、この状況は、「忖度」などではないということです。名誉校長安倍内閣総理大臣夫人という肩書は、武器なのです。ぐさっと刺す槍や刀なのです。
「影響力の武器」というベストセラーを著したロバート・チャルディーニという社会心理学者は、私たち人間は、「無意識のうちに影響力の武器を利用し、決断を下してしまう」と言っています。武器として、6つ上げていますが、その中の一つとして、「権威」を挙げています。
権威とは、何らかの理由によって相手を「権威がある」と判断すると、その人の発言に対して、従ってしまうという性質の事です。飛ぶ鳥を落とす勢いの首相には逆らえないのです。
またB.H.レイブンとJ.R.Pフレンチは、相手を言いなりにさせるパワーは、「その人が自分に対し影響力をもっていると認識をしたら発生する」と発表しています。
自分の昇進か左遷かを決める権限のある人の意向に背くようなことはしないのは当たり前です。わざわざ心理学を持ち出すまでもない、当たり前のことです。関与しようがしまいが、名誉校長が安倍内閣総理大臣夫人という肩書そのものが、パワーであり武器なのです。
まだ何年も権力者でありつづけそうな長期政権のワンマンのご意向を無視したら、たちまちやりに串刺しにされるかもしれない、怖い相手です。
安倍さんは、自分のその力を知っているからこそ、平気でうそぶいて強弁しているのです。その安倍政権を国民の多数が支持していると言う現実が、じつはいちばん怖い、こわいです。

創価学会は共謀罪を許すのか    小榑雅章

戦後70年以上も、私たちは新憲法のもとで、主権在民の民主主義を貫き、自由に暮らしてきました。その自由が脅かされています。
いまの安倍政権がゴリ押ししようといる共謀罪には、絶対反対です。
戦前、治安維持法というひどい法律のために、日本には、思想の自由も集会の自由も信教の自由もありませんでした。政府や軍事に批判的な言辞や集会や、個人の考えまですべて統制管理されていました。
アタマの中で、「こんな戦争はもういやだ、はやくおわらないかなあ」と一人秘かに考えることは出来ても、うっかり他人にしゃべったりして、お上に漏れたら、治安維持法違反でたちまち監獄に入れられました。共謀罪は、まさにその治安維持法なのです。共謀罪が評判が悪いので、政府は急きょ「テロ等準備罪」と名前を変え、テロ対策だと、治安維持法ではないと取り繕っていますが、明確に治安維持法です。
その「テロ等準備罪」は、昨日21日に閣議決定されました。
今日22日には、自民党の二階俊博、公明党の井上義久両幹事長は今国会の成立を目指す方針で一致したと報じられています。
創価学会を支持母体とする公明党は、本気でこの法律を通すつもりなのでしょうか。
創価学会は、治安維持法の下、どれほど思想・信教の自由を迫害されてきたか、その迫害の歴史を創価学会自身のホームページに、つぎのように記しています。
「戦争に突き進む日本の軍部政府は、昭和10年代後半から、本格的に思想の統制に乗り出し、やがて、国家神道を全国民に強制するという暴挙に出ます。 
牧口会長は、これに真っ向から抵抗。各地で活発に座談会を開催し、軍国思想を堂々と批判し、仏法の正義を説き続けたのです。迫害は必至でした。特高警察は、1943(昭和18)年7月6日、牧口会長・戸田城聖理事長をはじめとする創価教育学会の幹部21人を治安維持法違反・不敬罪の容疑で逮捕、投獄したのです。
真冬に暖房もない極寒の独房、栄養失調になるほどのわずかな食事、連日の厳しい取り調べ――それでも牧口会長は、信念を曲げることなく、不屈の闘争を貫きます。しかし、牢獄での過酷な日々は、70歳を超えていた牧口会長の体を確実にむしばんでいきました。
1944(昭和19)年10月13日付で獄中から家族にあてた手紙。『三障四魔が紛起するのは当然で、経文通りです』との、信仰への確信にあふれた言葉が、牧口会長の絶筆になりました。1月後の、11月18日。牧口会長は獄中で亡くなります。73歳でした。
多くの宗教者や思想家が、迫害に屈して軍国主義を賛美した暗い時代にあって、牧口会長が貫いた不屈の”精神“は、いまなお、不滅の光を放っています」http://www2.sokanet.jp/download/kofushi/chronicle11_01.pdf
公明党や、創価学会の人々に問いたい。
牧田初代会長、戸田城聖理事長をはじめとする創価教育学会の幹部21人を治安維持法違反・不敬罪で投獄された、迫害の歴史を無視して、いま、治安維持法と同じ共謀罪「テロ等準備罪」法を成立させていいのですか。

安倍首相の訓示とゆでガエル    小榑雅章

昨日、3月19日、安倍晋三首相は、防衛大学校の卒業式で、「北朝鮮による核・ミサイル開発や、南西諸島で急増する中国軍機の領空接近を念頭に、『こうした現実から目を背けることはできない。安全保障環境が厳しさを増す中、わが国自身の防衛力を強化し、自らが果たしうる役割の拡大を図っていかなければならない』と強調した」という。(産経ニュース)
こういわれると、安倍首相のいうことはもっともだ、防衛力は増強せねばならん、と思う人も少なくない。だから少し落ち気味だと言っても、安倍内閣の支持率は60%近い。大変つよい支持だ。
この安倍さんの態度を見て、私はゆでガエルのたとえを思い出す。
カエルを熱湯の中に入れると驚いて飛び出すが、ぬるい温度の水に入れて、少しずつ熱すると、カエルはその温度変化に気づかず、いつの間にか、ゆであがって死んでしまうというたとえ話である。
実際には、カエルはこうはならないようだが、人間は北朝鮮のミサイル実験や、中国の尖閣列島の話を繰り返されると、やはり軍備増強はしないと、という気にさせられてくる、そんな気がして仕方がない。まさにゆでガエルだ。
第二次世界大戦、太平洋戦争もそうだ。どう考えても、絶対戦う相手ではない。
戦艦も鉄砲も戦車も、兵器のほとんどは鉄からできているが、1940年の粗鋼生産量をみると、米国は6076万トンだが、日本はその9分の1の685万トンに過ぎない。輸送力の原動力になる自動車の保有台数は米国は3245万台に対し、日本はわずか15万。216倍だ。横綱に小学生が挑戦するようなものだ。
こんなに力の差がある相手に、戦いを始めたのは日本だ。まさに狂気としか言えない。
しかし、国民は熱狂して支持した。このキチガイ沙汰をバンザイをして喜んだ。
その結果、300万人もの国民が死に、日本中は焼け野原になり、食料も着るものもなくなり、庶民は塗炭の苦しみを味あわされた。
なぜだ。なぜ反対しなかったのか。
敗戦後、「国民がみんなあの戦争に賛成した。だから、国民みんながわるかった。一億総ざんげだ」という意見があった。
そして、結局、あのたくさんの国民を死なせた戦争の責任は誰なのか、うやむやになったままだ。
やっぱり、おかしい。
国民をぬるま湯につけて、かまゆでの火を燃やした連中がいるはずなのに、おかしい。
いま、安倍さんの話がもっともだ、軍備増強は必要だと思っている人は、ゆでガエルと一億総ざんげを思い出して、ほっぺたをつねってみてほしい。

萬葉版画館 宇治美術館103

萬葉集9巻1687

宇治敏彦制作板画 萬葉集9巻1687
しらとりの さきさかやまの まつかげに やどりてゆかな よもふけゆくを(柿本人麻呂)

震災は日本人の人間性を向上させただろうか?   宇治 敏彦

 東日本大震災から3月11日で6年が経つ。東京電力福島第一原発の放射能漏れ事故も加わって、まだ故郷に帰れない人々も多い。政府は原発事故で避難指示を出した地域のうち福島県の浪江町、川俣町、飯館村については3月31日、富岡町については4月1日、それぞれ帰還困難区域を除き帰還を認めることになった。その一方、大熊町、双葉町では依然、解除の見通しが立っていない。チェルノブイリ原発事故跡地が依然、居住不能なのと同様に、東電原発事故がいかに日本人の暮らしに大きな被害を与えたかを改めて思い知らされる。
 しかし悪いのは東電だけではない。被災者やその関係者から補助金をむしり取ろうと目論む日本人が結構いることだ。なかでも純粋無垢と思われる子供たちの間で、そういう行為が「いじめ」として行われていた事実に接し、筆者は「日本人は進歩しているのだろうか?」と疑ってしまう。最近、東電原発事故で横浜市に避難した中学一年の男子生徒が「つらいことがあっても自殺を考えないでください」と全国のいじめ被害者に呼びかける手記を発表して話題になった。
 この少年は横浜に避難した小学六年生当時に仲間の生徒たちから「補助金ゆすり」のように合計150万円を脅し取られ、不登校に陥った。これを特殊例と言えないほどに各地で被災者いじめが行われてきた。
 また3月8日の中日新聞朝刊の記事によれば、日本に難民申請中のバングラデシユ人の男性2人が人材派遣会社を名乗る日本人から「福島第一原発事故の除染に従事すればビザが延長される」と嘘の説明を受けて、福島県飯館村で除染作業に携わっていたという。
 いじめ、詐欺、窃盗、婦女暴行などなど、さまざまな悪事が震災と原発事故を「絶好の舞台」にして行われてきたことを私たちは看過してはならない。こうした報道に接して私が思い出すのは6年前に「埴輪」同人の小榑雅章君と二人で震災直後の宮城県石巻市や福島県飯館村などを視察した時のことだ。飯館村の広報紙には「避難したいが、その間に農機具などが盗まれないようにするにはどうしたらよいのか」といった相談が寄せられているとの記事が載っていた。
 「地震、雷、火事、おやじ」。昔から「怖いもの」として口伝されてきたが、本当に怖いのは、災難を悪事のチャンスと捉える「精神の腐敗」ではないだろうか。「俺おれ詐欺」なども含めて、終戦直後の昭和20年代に比べたら、はるかに物質的に豊かになっているのに、子どもの世代も含めて精神的に腐敗していく素地が広がっているとしたら、日本の未来は決して明るくない。

教育勅語ってなんですか?   小榑雅章


若い友人から、「教育勅語ってなんですか?」と聞かれて、言葉に詰まった。
もう当の昔に死語になったと思っていた教育勅語という言葉が、近頃頻繁に登場する。安倍首相の昭恵夫人が名誉校長を務める大阪の学校法人森友学園が、幼稚園児に教育勅語を暗唱させているというのだ。
新聞によると、安倍首相は、妻が名誉校長に就任していることについて、国会での質問に答えて、
「妻から森友学園の先生の教育に対する熱意は素晴らしいと聞いている」と説明。また、同学園が「安倍晋三記念小学校」の寄付者銘板に名前を刻印して顕彰する、との文言で寄付金を集めていたことを知っているかとの福島氏の問いには、「いま話をうかがって初めて知った」と答弁した。
  そのうえで「私の考え方に非常に共鳴している方から、(2007年に内閣総辞職して)首相を辞めた時に『安倍晋三小学校にしたい』という話があったがお断りした。まだ現役の政治家である以上、私の名前を冠にするのはふさわしくない。私が死んだ後であればまた別だけれど、私の郷土の先輩である、例えば吉田松陰先生の名前をつけられたらどうかという話をした」とも語った。(朝日新聞2月17日電子版)
国会では、土地の払い下げ金額が、常識はずれの安さだと連日問題にされているが、本当はそれより教育勅語の方がずっと深刻な問題だ。この新聞記事のように、われわれの総理大臣が『安倍晋三小学校にしたい』と言われ、まだ生きているから遠慮するが、死後ならいいというのだから、教育勅語を信奉する学校法人と思想信条を同じくしているわけだ。これは、驚くべきことだ。天地がひっくり返るほどの大事件である。
戦前、小学生だった頃、校庭の一隅に奉安殿という特別な宝蔵庫のような建物があり、その中に天皇、皇后両陛下のご真影(写真)と教育勅語が安置されていた。それはまことに尊いもので、生徒たちは登下校の際には、奉安殿に向かって一礼せよとしつけられていた。
教育勅語とは、天長節や紀元節などの式典には、校長先生が厳かに奉読する天皇陛下のお言葉で、「朕惟フニ我カ皇祖皇宗國ヲ肇ルコト・・・」と全文を暗記させられたが、さて正確な知識となると、記憶が遠すぎて定かでない。広辞苑を開いて教育勅語の項を見ると、
明治天皇の名で国民道徳の根源、国民教育の基本理念を明示した勅語。教育の淵源を皇祖皇宗の遺訓に求める。一八九〇年(明治二三)一〇月三〇日発布。一九四八年、国会で排除・失効を決議。正式文書では、「教育ニ関スル勅語」。
教育の淵源を皇祖皇宗の遺訓に求める、と言われても、今の人にはチンプンカンプンだろう。
この日本は天皇陛下の祖先がおつくりになったもので、以来、深く厚く徳を施されてきた。臣民(国民)は心を一つにして忠孝に励み、代々長く、この美しい伝統をつづけてきた。これぞ、わが「国体の精華にして教育の淵源・・・
少しでも今の人にも通じるようにと思ったが、とても無理だ。大体この国を天皇の祖先、天照大神がつくったという説明や国体とはなんだということを抜きに言葉だけ言い換えようとしても、意味がない。
要するに、自由で多様な言論を封じ、国論を統一するために発されたもので、戦争推進の要因にもなった重要な勅語だった。天皇のための戦争のために国土は焼かれ、何百万もの国民が死んだ。もうこんなことは繰り返してはならない。だから戦後の国会で、教育勅語は「排除・失効を決議」され、天皇の国ではなく、国民主権を明確に謳った新憲法がつくられたのだった。
その教育勅語を、大阪の森友学園では幼児や生徒に暗唱させているというのだから、なんともおぞましい。しかも安倍晋三小学校にしたいと言われたり、昭恵夫人が名誉校長になったり、平成29年4月開校するという小学校の土地を、国が9割引きの大ディスカウントで払い下げたというのだから、ただごとではない。
総理大臣は、憲法を遵守する義務がある。当然、排除・失効した教育勅語を信奉する学校法人などに関わってはならないのは、自明のことだ。


プロフィール

magazinehaniwa

Author:magazinehaniwa
ブログ雑誌埴輪へようこそ!
埴輪同人 宇治敏彦・小榑雅章
連絡先
 magazinehaniwa@yahoo.co.jp

最新記事
カテゴリ
最新コメント
月別アーカイブ
FC2カウンター
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR