余裕が出来ると我儘になる人間の性  宇治敏彦

 世界中の人々がヒヤヒヤ、ドキドキしながら事の成り行きを見守った今年最大のニュースといえば、南米チリ北部サンホセ鉱山の落盤事故で69日間、地下約700メートルに閉じ込められた33人の救出作業だった。気温30度、湿度90%という地底での暮らしはどんな状況だったのだろうと想像していたところ、NHKテレビが10月24日夜、「奇跡の生還・チリ鉱山 独占映像が語る地下の真相」という番組を放映した。NHKが提供したビデオカメラで撮影されたものだが、避難所は3つのパートに分かれ、大半の作業員が裸に近い姿で地上から送られた簡易ベッドに横たわっていた。しかし、大きなたまり池のようなところで水浴びする作業員もいて、地下避難所のスペースは意外に広い感じにも見えた。
 落盤事故発生後から地上と連絡が取れるまでの17日間が精神的にも一番きつかったと思うが、リーダーのルイス・ウルスアさん(54)の指導力はすごい。食料は配給制にして避難所に保管されていたツナ缶やビスケットを2日に1度食べるだけにした。NHKテレビのインタビューに応じた作業員の1人は、隣に横たわった仲間がみるみる痩せていくのを見るのに忍びなかったという。だが意外だったのは、仲間内で喧嘩が始まったのは地上との連絡が取れて、食料品などが届くようになってからだという。たとえば地上の家族と通話できるようになったテレビ電話も1人あたりの通話時間を決めたが、なかなか守られなくて作業員間でトラブルに発展したという。
 この話で思い出したのは1995年1月の阪神大震災のときの人間関係である。震災直後の何日間は1個のパンを分け合って飢えをしのぎ、焚き火を譲り合うといった人間愛が随所で見られたのに、救援物資が届くようになったら不満や欲望が表面化した。「あの人間愛や助け合い精神はどこへ行ったのだろう」と語っていた人もいた。
 チリ鉱山の地下で救援を待つ33人の間で精神的トラブルを避けるために2つの方法が取られた。ひとつは1日24時間を3分割して「仕事班」「睡眠班」「休憩班」に分けて交代で秩序ある日々を過ごしたこと。もう一つは1日2回集まってお祈りの時間を持ったこと。
 過酷な条件の中で生きていくためには「欲望」は大事であり、同時に余裕ができると「我儘」になるのも人間の性である。それをどうコントロールして仲良くやっていくか―そこに指導者とか、宗教とか、秩序とかが求められる。チリの事故は、そんなことも教訓として残したといえるのではないだろうか。
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