福島原発の事故は津波のせいにしていいのか  小榑雅章

Twitterでのつぶやきにもみられるように、私たち日本人にはお互いに思いやりを持って助け合う気風があるようです。いま被災者の方々のご苦労を思いやり、停電も交通規制もみんなで我慢しよう、節約しようという気運になってきています。行列なども乱さずにみんなおとなしく並んでいる、規律正しく我慢強い、これもよく言われる日本人の美風でしょう。
それはとても素晴らしいことです。そういう多くの日本人がもっているとされる同質の気風を褒められたりすると、やはりうれしくなります。
その上で、この際ですからあえて申し述べたいことが2つあります。
一つは、福島第一原子力発電所についての菅首相や枝野長官の大本営発表です。国民に不安をもたらさないように慎重に、控えめに説明しているのはよくわかります。しかし、それが真実を伝えているかどうかは疑問です。
たとえば、「建屋内に原子炉から漏れた水素が爆発したことは予見できたことで、原子炉の格納容器の健全性は確保されている」だから安心していい、という発言です。これは事実でしょう。しかし、前段の「原子炉から漏れた水素」などという現象が起こるはずがない、絶対にそんなことは起こらない、というのが、原子力発電所の建前なのです。「格納容器の健全性が確保」というのは、絶体絶命、最後の最後のとりでのはずです。それが保たれているから安心しろ、というのは、まさに大本営発表です。
ミッドウェーで大敗した時、敗退とは言わず転進と大本営は発表し、硫黄島の全滅を玉砕と言った。悲惨な沖縄戦の敗退の後も、本土決戦、一億一心火の玉だ、とそれが当然の帰結のように国民に説明してきました。小学生だった筆者も、本土に上陸してくる鬼畜米英と戦うのだと必死の覚悟をしたものです。その結果が、8月15日の敗戦を終戦と言い換える姑息な発表でした。
「格納容器の健全性が確保」というのは、この本土決戦とでも言うべき最終防衛線ではないですか。ミッドウエーの大敗も問題であり、沖縄戦も大問題ではないですか。冷却電源の不備も、水素爆発も大問題なのです。最終だけ守られればいいのではないのです。枝野さんの説明を聞いていると、水素の漏えいも爆発も当然のようなことになります。まさに転進であり終戦というもの言いにしか聞こえませんでした。
この国難に国民一体になって打ち勝とうと、我慢をうながす菅首相の演説や本質をはぐらかすような枝野長官の発言は、物わかりのいい、協力的なこの国の国民の美徳、美風を逆手にとっているような気がしてなりません。20キロ圏内の人々は地震や津波の被害を受けて苦しんでいる上に、さらに原発のために避難させられてどれほどつらいめにあっていることか。文句をいいたいだろうによく黙って耐えておられると思います。
もう一つは、そもそも論です。菅首相は、「想定を超える地震・津波によって」原子力発電所が被害を受けた、と言っています。だから事故が起こるのは仕方がない、天災だからがまんしてくれ、と言います。でもそうでしょうか。
原子力発電には、かねてより賛否があります。唯一の被爆国として、国民が放射能汚染には慎重になるのは当然ですが、それでも原子力発電所が次々に作られたのは、「絶対に安全だから」という言質があったからです。
想定できる限りの安全性を確保している、住民の方や日本国民には絶対に迷惑をかけないと約束をしてきたから、渋々ながら原子力発電所が出来たのではないですか。
それを、まったく無視して「想定を超えた地震・津波により」という言い草は通らない。
マグニチュード9.0というのはまさに巨大地震です。しかし1960年のチリ南部地震はM9.5です。1964年のアラスカ地震はM9.2でした。つまり十分に想定できる地震だったはずです。ましてこんどの事故の原因は、冷却のための非常用発電機が津波のために被害を受けて冷却できなくなったためだということです。なんという稚拙な失敗でしょう。この福島県や宮城県の海岸は、これまで何回も巨大な津波の被害にあっているつらい経験のある地域です。その津波経験のある地域に、津波被害を想定していない非常用発電装置を設置していて、「安全性は万全です」「あらゆる災害に対応できます」と宣言をしてきたことになります。私自身取材をして直接、「絶対安全」を耳にしています。
そもそもの設計の失敗をないことにして、「想定を超える地震・津波によって…」という免罪符はあり得ないのです。
「のど元過ぎれば熱さを忘れる」とか「すべてを水に流す」というのも日本人の気風でしょうか。だとしたら、問題の起こっているいまこそ、真の問題点を指摘すべきです。いまは原因よりも対処が第一、というでしょうが、対処も原因も、であるべきです。そうでないとまたうやむやにされて、何度も原発事故を起こすことになるのです。
「すべてを水に流す」はだめです。また敗戦と言わずに終戦と言いつくろうようなごまかしからは、真実は見えません。そして真の安全は勝ち取れません。



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