福島原発事故と太平洋戦争  小榑雅章

21日夕刻に政府は、「東京電力福島第1原子力発電所からの放射線の影響を受けたとみられる福島、茨城、栃木、群馬県産出のホウレンソウとカキナに関し、原子力災害対策特別措置法に基づき、当面出荷を控えるよう関係事業者に指示する。福島県産の原乳についても、同様の扱いとする」と発表した。
枝野官房長官は、「放射性物質濃度の牛乳を飲んだ場合でも被曝量は胸部CTスキャン1回分程度であり、ホウレンソウは1年間食べても被曝量は胸部CTスキャン1回分の5分の1程度、ただちに健康に影響を及ぼす数値ではないということを十分ご理解いただき、冷静な対応をお願いしたい」と説明しているが、スーパーや八百屋の売り場からは、ほうれん草が姿を消すだけでなく、その他の野菜も売れ行きが格段に落ちているという。
「前からおかしいと思っていた」と知り合いの主婦は言う。「政府は放射線のことはよく言うけれど放射能のことは何も言わなかった。放射能(放射性物質)が飛び散っていることは当然だし、野菜などに付着するのも当然。人間は屋内に避難出来るけど、農地も野菜も避難できない。何か月も放射能をずっと浴びることになるのだから、ほうれん草だけでなくすべての農地は汚染されていると思う。放射線の禁止区域は20キロとか30キロだけど、放射能は150キロ以上も離れた群馬県にも届いている。政府は『ただちに健康に影響を及ぼす数値ではない』とか『冷静な対応をお願いしたい』とくりかえすばかりだけれど、肝心な情報を隠して操作しているとしか思えない」と怒っていた。
これは普通の主婦の言である。自分でネットでしらべているという。政府は、「ネットなどのいい加減な情報は信じず、政府の発表だけを信じるように」と繰り返してきたが、結局ネットの言うことの方が正しかったではないか、というのである。
前にも書いたが、政府の発表はきわめて抑制的である。国民の不安心理を抑える意味からも、何でもない、大したことはない、というのは当然だろう。しかし、それはやはり大本営発表と同じで、情報操作なのだ。国民は、恣意的に操作された情報だということを、敏感に感じ取る。1度はいいが、それが積み重なると、あやしい、信じられない、政府は大丈夫だと言っているけれどきっと危険なのだ、…と全く逆の不信につながる。政府を信じなくなるのだから、この方がずっと悪い。社会心理学の風評や信頼の研究事例からも、このことは明確である。基本的に、情報操作は毒薬であり、やってはいけないのだ。
マスコミも、恣意的に楽観的な解説や意見を述べる学者たちを登場させているようにも思えるが、それがかえって逆効果になりかねないことを、ぜひ理解するべきである。
食料品や日用品を買い占めたりガソリンスタンドに長蛇の列が出来るのは、将来への不安であり、政府への不信のあらわれである。
それにしても、忍耐づよい国民だと思う。我慢づよく、不信や怒りを政府へぶつけずに、自ら節約に努め、行列に並び、被災者にエールを送る。節電に努め旅行や宴会も中止だ。諸外国から、日本はなぜ略奪が起きないのか、さすがだと褒められて、ひそかに喜んでいる。
この国の国民のまさに誇るべき美質美風だろう。
だがあえて異をとなえたい。
20キロや30キロも強制的に立ち退きをさせられて、ろくに暖房も食事もあたえられずに過ごさなければばならないたくさんの人たちが、なぜそんな理不尽な目に合わなければならないのか、誰がそんなことをしたのか、国民はどうしてその人たちのことを考え、もっと腹を立てないのか。日本国民として政府に異をとなえないのか。天災だから仕方がないのか。本当にどうしようもない天災だったのか。あれほど絶対に安全だ、と言っていた原子力発電がなぜこんなことになったか、怒らないのか。
ほうれん草などの野菜も食べられなくなった消費者としても、なんでこんなことになるのか、と怒るべきではないのか。ほうれん草だけでなく、もっとたくさんの野菜が売れなくなった農家の人たちのことを考え、市民はなぜ怒らないのか。政府の声明に唯々諾々と、おとなしく従うだけでいいのか。
私はかねがね、なぜ負けると分かっていた太平洋戦争などはじめたのか、不思議でならなかったが、今回の政府の大本営発表的情報操作やそれに積極的に応じている新聞やテレビ、そしてひたすら我慢する国民…をみていると、なんとなく答えが見えてきたような気がして背筋が寒くなるのである。
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