ASEANの記者は日本の震災をこう思っている(2) 宇治敏彦

 7月3日に行われたタイの総選挙は、タクシン元首相の妹、インラックさんのタイ貢献党が過半数を制して反タクシン派のアピシット民主党政権を倒した。この結果、タイに初の女性首相が誕生する。選挙は赤シャツ対黄シャツの怨念の戦いだったが、選挙戦の底流には原発問題も潜んでいた。アピシット政権下の昨年、タイは2020年以降5基の原発を稼働させる電源開発計画を決めた。しかし福島第1原発の事故で民主党も「さらに調査、研究が必要だ」と慎重姿勢に転換。タイ貢献党も「安全が十分確認されるまでは建設しない」方針を確認した。与野党が選挙戦を通じて原発慎重論を掲げたことで、インラック新政権は原発見送りを正式決定するだろう。
 ASEAN諸国の中ではタイ同様に福島の事故以後、マレーシア、フィリピンが原発慎重論に転じた。逆にベトナム、インドネシアはまだ原発推進の旗を降ろしていない。
 そんな中で来日した記者たちは原発問題をどう考えているだろうか。「ハノイラジオ・TV」のチーフプロデューサーであるファン・ティ・キム・オアンさんは「ベトナム政府は原発推進の方針ですが、私たちはハノイからわずか200キロ以内の中越国境地帯に中国が原発建設を計画していることを非常に心配している」という。オアンさんの放送局は国営だが、「その計画は政府と一部の学者だけに知らされていて、私たちのところには情報が届いてこない」と口惜しがっていた。
 同じく政府が推進派のインドネシアから来日した「コンパス・メディア・ヌサンタラ」女性記者のアニータ・ヨシハラさんは「国内ではNGOが原発開発に強く反対しており、計画通りには実行できないでしょう」と明言した。ちなみに同国の計画では2019年に1基、25年までに3基追加となっている。
 タイ「バンコク・ポスト」女性記者カナナ・カッタランシポーンさんも「既に開発計画は凍結されたようなものだが、インドネシアと同様にNGOの反対が強い。今後10年、20年は代替電力エネルギーの開発に努力することになろう」と述べていた。2021年以降2基の原発計画を持つマレーシアから来た「ニュー・ストレーツ・タイムズ」のファダール・イラヒ・ビン・アブドル・ガーニ記者も「マレーシアのメディアは核問題の専門家たちに取材したが、全員揃って原発建設に否定的だった。3月11日以降は政治リーダーたちも原発建設に慎重になりだした」と報告した。
 唯一ラオスから来た「ビエンチャン・タイムズ」記者のカムポン・シーボンサイ氏が「ラオスは貧しく技術力もないので原発推進は不可能で、水力発電が中心にならざるをえない。しかし原発があれば開発途上国に有効かもしれない」と述べたのが例外的な発言だった。
 各記者の発言を聞いていて私は、福島原発事故がもたらした「反面教師」ぶりが「脱原発」機運をアジアでも盛り上げ、原発に代わる新たな代替エネルギーの開発を促進するのではないかとの期待感を抱いた。7月3日の東京新聞、中日新聞の社説に「原発の反面教師たれ」という、要約していえば①原発事故のデータを全面的に公開して次の事故防止の「教材」として世界が共有する②菅首相が、原子力発電はここ10年ぐらいで卒業する過渡的エネルギーと明確に定義して、代替エネルギー開発プランとその実行過程を示す③それらを実行することが日本をして「原発の反面教師」から「安全社会の模範生」に返り咲ける唯一の道ではないか―との主張を書いたので、読んでいただければ幸いである。 
 最後に原発とは関係ないが、タイの女性記者が言った次の発言が耳に残っているので付記しておきたい。「インド洋大津波の直後から何度もタイ南部のプーケットへ取材に行った。大津波で壊滅的被害を受けたが、世界的に知られた観光地ということもあって復旧復興が早かった。ところが一方でパンガーという貧しい土地は、いまだに被災直後と変わらない有様だ」。日本の被災地が同じような体験をしないよう、ここではタイを「反面教師」にして対応していくことが必要である。
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