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阿久悠記念館と「無冠の父」  小榑雅章

阿久悠さんが亡くなったのは、2007年8月1日だった。
それから4年余がすぎて、先日10月28日の午後、東京駿河台の明治大学に阿久悠記念館が開館した。かねてより、この日に開館されるということを知らされていたのと、同じこの日の夜、明大のホールで阿久悠歌謡祭が開催されるので、久しぶりに阿久さんに会えるような気分になって、少しウキウキしながら出かけて行った。
阿久さんとは、以前から知り合いであった。
1990年に、兵庫エフエムラジオ放送というFM放送局が開設されるにあたって、株主の中から、この放送会社の会長には兵庫県淡路島出身の有名文化人の阿久悠さんに就任してもらいたい、という意向が寄せられた。株主は、兵庫県や神戸市などの自治体や新聞社、地元の有力企業などで、ダイエーも出資企業の一つだった。当時、私はダイエーの秘書室長だったが、中内社長に命じられて、阿久さんに会長就任のお願いに行かされた。
阿久さんは、私の話を聞いて、「うーむ、兵庫県民の代表として会長になってくれといわれても、僕は兵庫県民という意識はあまりないんだよ、淡路島で生まれたのはたしかだけど、故郷という感じではないんだよね」
阿久さんは、あまり乗り気ではないような口ぶりだったが、それでも、「会長って何するの?何もしなくていいのなら、引き受けてもいいよ」と承知してくれた。
何年か後で、「放送会社の会長になれば、黒塗りの車で最敬礼でお出迎えされ、ゴルフでもさせてくれるのかと思ったけどね…」と笑っていたが、現実は厳しく、バブルのはじけた1990年の開業は、最初から大赤字。派手な設備投資も重荷になり、あっという間に債務超過の四苦八苦。黒塗りの車もゴルフも、一度として実現しないどころか、一銭の報酬もなく、阿久さんは、たびたびの取締役会や株主総会に呼び出されていた。
3年後の1993年に、何の因果か、この放送局の立て直しに行って来い、と送り込まれることになった。阿久さんは、「僕を会長にしたんだから、君の責任は大きいぞ」と笑ってから、真顔で「待ってたんだよ」とボソッと言った。
阿久さんには、本当に申し訳ないと思っていた。それから死に物狂いで働いた。荒療治も行なった。その都度、阿久さんに報告すると「少しは会社らしくなってきたね」「ご苦労さんだね」などと、かならず声をかけてくれた。
阿久悠記念館には、5回も受賞したレコード大賞の盾やトロフィーや「また逢う日まで」などの歌詞、年表、5000曲に及ぶという曲名などの展示と、伊豆宇佐美にあった自宅の書斎をそっくり再現した部屋が常設されている。昭和の大作詞家、たぐいまれなヒットメーカー、そして、瀬戸内少年野球団などの小説家…華々しい活躍の成果が展示されている。
その中の一角に、10月13日に岩波書店から出版されたばかりの「無冠の父」とその直筆の原稿が置かれている。
じつは、この本は出版されてすぐに読んでいた。
この本の末尾に、次のような注記がある。
「『無冠の父』は、阿久悠の手になる長編小説のなかで唯一の未発表作品である。一九九三(平成五)年の九月から一一月にかけて執筆され、完成稿が編集者に渡されたが、改稿を求めた編集者に対して阿久悠は原稿を戻させ、以後、二〇〇七年八月に没するまでこの作品についていっさい語ることはなかった。…」
「改稿を求めた編集者に対して阿久悠は原稿を戻させ…」とはどういうことなのだろう。編集者はどこを改めてほしいと言ったのだろうか。阿久さんは、腹を立てたのだろうか、どうして出版しなかったのだろうか。
本を読みながら、いろいろな思いが湧き上がってきた。しかしそれはそれとして、阿久さんと同じ年に生まれ、同じ戦中戦後の体験をしてきた自分としては、どうしても阿久さんの思いに自分を重ねあわせてしまう。
淡路島の駐在所の巡査として、終生一介の巡査として過ごした無冠の父の生きざまを、少年のまなざしを通して語っている。父親とは何か、親子の絆とは何か、人間の矜持とは何か、故郷とは何か…
阿久さんが、会長就任を依頼に行った私に「僕は兵庫県民という意識はあまりないんだよ、淡路島で生まれたのはたしかだけど、故郷という感じではないんだよね」と何故語ったのか、故郷とはなにか、その答えが、この本にあった。
無冠の父
*「無冠の父」阿久悠 岩波書店刊 1800円+税
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