八ッ場ダム建設は本当にやめられるのか  宇治敏彦

 「ダムに沈む幻の温泉」「源頼朝ゆかりの名湯」。パンフレットにそう印刷された群馬県の川原湯(かわらゆ)温泉。八ッ場ダムが完成すると、この温泉場もダムの湖底に沈む運命にある。東京新聞前橋支局長・若松篤氏の案内で紅葉が美しい同県吾妻郡長野原町周辺のダム建設現場を歩いた。ダムサイトは利根川水系の支流・吾妻川の中流にあり、利水、治水、発電を目的に建設が始まったもので、当初計画通りなら2015年(平成27年)に完成予定だ。川原湯温泉街では18軒の旅館や約50軒の土産物店、小売店、サービス業が全部水没するので、移転事業が進められている。
 しかし2年前の衆院選で民主党が「コンクリートから人へ」を合言葉にマニフェスト(政権公約)にダム建設中止を盛り込んだことを受けて事業継続の是非が議論されており、いまだに最終決着がついていない。同党の八ッ場ダム問題分科会(松崎哲久座長)は11月22日から結論づけの論議を始めたが、国土交通省関東地方整備局は「建設費用に対して6.3倍の投資効果を確認した」と建設継続を主張、建設反対派議員と対立している。前田武志国交相は「年内には結論を出したい」というが、まだまだ難航しそうだ。
 一番困っているのは住民たちである。10月7日、江戸時代から続いている三つの共同浴場の一つ「笹湯」が閉鎖になった。老舗旅館「山木館」は11月9日、代替地への移転を決意した。吾妻川に近い共同浴場「王湯」に入ってみる。料金300円。頼朝が発見した湯と伝えられ、正面に源氏の紋所「笹リンドウ」。ここの源泉が各旅館に鉄管で運ばれる。内湯と露天風呂があり、その両方に入ってみた。内湯はものすごく熱い。水道水で冷しており、「温泉に入れなくなるので水道を止めないでください」との張り紙がある。露天風呂からは渓谷沿いに紅葉が見え、絶景だ。毎年1月20日、大寒に行われる奇祭「湯かけ祭り」はこの王湯が舞台になっている。ほてった体で帰りがけに、番台を守っている女将さんに聞いてみた。「ここも代替地に移転する計画があるのですか?」。彼女は困った表情でいった。「正直どうなるか分からないのよ」。
 若松支局長が案内してくれた山間の代替地には長野原町長の家も新築されていたが、集落というにはまだ数の少ない十数軒である。そばには新設の立派な道路が出来ているが、交通量はまばら。JR吾妻線の新川原湯温泉駅もこの代替地近くに計画されている。驚いたのは湖面2号橋、3号橋など斬新なデザインの橋やそこを通る立派な道路がダムより早く既に完成していることだ。温泉街から約1.6キロ草津方面に向かった国道145線脇に「やんば館」というダム建設広報館が建っていて、説明会などを開いている。群馬県八ツ場ダム水源地域対策事務所が管轄しているのだが、皮肉にもダム建設凍結がニュースになってから来館者が増えたという。私たちが訪れたのは月曜日だったが、紅葉シーズンと重なったせいか、見学者でごった返していた。このあたりからみる周囲の山々は、紅葉で山全体が燃えているようだった。もし山々の前景としてダムの湖面があったなら、さぞや見事な景色だろうと支局長らと語り合った。「草津温泉の人たちが一番喜んでいるんです。道路整備のお陰で草津への往来が便利になりましたから」と若松支局長がいう。確かにダム建設自体は現在、凍結されているが、ダム完成を前提にした周辺整備は道路、鉄道、住宅地移転など着々と進んでいるように思える。周辺から既成事実がつくられていき、住民たちはどうしたらいいだろうと将来設計に困惑を深めている。「コンクリートから人へ」というキャッチフレーズは賛成だが、現実の政治は鉈を振り下ろしたようにスパッとはいかない。「大阪冬の陣ではないが、段々外堀が埋められていく状況で、本当にダム建設をストップできるのだろうか」。それが現場を見た私の率直な感想だった。
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