薄熙来氏の天国と地獄   宇治敏彦

 今年の初めまでは習近平体制の最高指導部入りが有力とみられていた重慶市共産党書記の薄熙来氏(62)があっという間に失脚した。妻の谷開来弁護士が60億ドルの不正所得を海外送金していた容疑や旧知の英国人殺しに関係した容疑で拘束されたほか、薄氏自身が胡錦濤総書記ら党指導部の電話を盗聴していた疑いなどが浮上している。
 日中国交正常化25周年に当たっていた1997年、私が団長になって在京新聞、テレビ、通信各社の論説・解説委員長訪中団として北京で李鵬首相と会見した後、大連を訪問し、当時市長をしていた薄氏と懇談したことがある。革命幹部、薄一波氏の子息だというのでガチガチの革命理論派かと思ったが、ざっくばらんで近代的な感覚を持った若手リーダーという印象だった。たとえば大連市を中国有数のサッカー王国に育てあげたのも薄市長だったし、都心の公害企業をどんどん郊外に移して、一般市民の喝采を浴びていた。
 「どうやって公害企業の移転を説得したのですか?」と私は聞いてみた。「実績を見せることです」と薄市長は答えた。「改革を進めるためには市民への説得も必要だが、改革の実績をあげることで改革の必要性を認めてもらうのです」と当時48歳の市長は自信たっぷりだった。
 帰国後、私はこの話を北海道ニセコ町長の逢坂誠二氏(現在、民主党衆院議員)にしたことがある。「その通りですが、それが一番難しい」と逢坂氏は言っていた。薄大連市長は、その後、遼寧省長になり、地元の幹部や経済人を大挙引き連れて何回も来日し、中国への投資を要請するなど、積極的に活動していた。やがて重慶を足場に活動し「唱紅打黒」(革命精神を堅持して、闇の勢力を撲滅する)などの運動を展開、市民の高い人気を獲得していた。習近平副主席と同じ「太子党」(革命幹部の子息たち)の一員として、やがては習体制を支えるメンバーになるのではとみられるまでになっていた。
 ところが失脚後に出てくるのは薄氏とその周辺のさまざまなダーティぶりである。共産党内部の権力闘争があるとはいえ、ここまで悪い事例が列挙されると、完全失脚からの再起は不可能に近いだろう。もちろん鄧小平氏のように七転び八起きでトップリーダーに復帰し、中国国内で不滅の名声を残している人物もいるので、薄氏の将来を完全否定するのはもう少し待ってもいいかもしれない。大連でも重慶でも一般大衆から人気の高い指導者であったことは確かだし、ポピュリズム的な政治で点数稼ぎをした面も否めないだろう。ただ一つ、大連を訪問したときに不思議に思ったことは、大連市の一番の稼ぎ頭は海鮮料理店を経営する兄弟であった。ともにベンツを一台ずつ所有していたが、よほどの便宜供与を共産党か行政府から受けていなければ海鮮料理で大都市の所得ナンバーワンというのは考えられないことでもあった。中国系マスコミによれば薄氏は①妻をかばうため英国人を殺した容疑②大規模な経済犯罪の疑い③軍隊を動かし地方武装を進めた④学者たちを買収して自分を宣伝してもらい中央の指導権を狙った―という「4つの罪」を背負っているという。米国につぐ経済大国になった中国という国家は、日本人の一般常識ではつかみきれない複雑さを持っている。薄熙来事件は、その氷山の一角に過ぎない。
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まとめtyaiました【薄熙来氏の天国と地獄   宇治敏彦】

 今年の初めまでは習近平体制の最高指導部入りが有力とみられていた重慶市共産党書記の薄熙来氏(62)があっという間に失脚した。妻の谷開来弁護士が60億ドルの不正所得を海外送金

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