フルメディアから「舌の先」まで(久しぶりの中国印象記) 宇治敏彦

 日中韓3か国のジャーナリストによるセミナーが開催され、3日間ほど北京にいた。1972年の日中国交正常化以来、9回目の北京訪問だが、2003年からは訪ねていなかったので、どんなに大きく変化しただろうと内心楽しみにしていた。結論的にいえば、住宅、市街地整備、地下鉄、道路、通信機器類などハード面では驚くべき進化だが、人間性とかモラルやサービスなどソフト面の近代化はまだまだで、日本人は国民総生産で2位の地位を中国に明け渡したからといって自信喪失することはないというのが率直な印象だった。
 6月1日は児童節(日本での「こどもの日」に相当)で北京動物園、天文館、首都博物館などは子どもでにぎわっていた。子ども料金は中国では身長によって決まる。現在は1メートル20センチ以下の子どもは無料だ。私が中国を取材した1970から80年代は「1メートル以下は無料」だった。鄧小平主導の改革開放路線で生活が豊かになり、子どもの体格も20センチ伸びたということだろう。
 またテレビでは「舌尖上的中国(舌の先の中国)」というドキュメンタリーが大人気で、「舌の先」が流行語になっているという。小麦、餃子、モモなど食材を中心にしたTV番組で、これも中国人の食生活の向上を物語っている。
 さらに情報産業面では「フルメディア」という表現が一般化している。中国記者協会(正式名称は中華全国新聞工作者協会)の祝寿臣書記によれば「既成メディア(新聞、雑誌、テレビなど)だけでなく、ネットなどとも組み合わせた総合的な情報産業として発展していくことが不可欠という意味でフルメディアという表現が一般化している」という。祝書記は最近アメリカに出張し、マイクロソフトなどネット産業を視察してきたばかりだ。中国記者協会によると現在、中国内では約100万人がフルメディアに従事しており、うち23万4000人が記者職だという。
 こうした発展の一方で、まだまだ開発途上の側面も多い。今回、40年ぶりに民族飯店というホテルに泊まった。建物は5年前に近代的なビルに改築されていたが、従業員のサービスは以前と変わらないか、ひょっとしていたら低下しているかもしれない。毎晩、帰室すると「女性をお世話します」と美女写真つきの名刺がドア下から挿入されていたし、洗面台の一角には電池内蔵コンドームという得体のしれない商品が35元(約600円)で置いてあり、ミニバーの飲み物と一緒に精算するようになっていた。東京でいえば丸の内か銀座に近い長安街の一流ホテルにして、のことである。
 35年前に一か月近く中国での取材を手伝ってもらった韓佐民さん(元大阪総領事館副領事)と同ホテルのバーで旧交を温めた。外交官を退職して現在68歳。北京市内で100平方メートル以上のマンションに娘夫妻や孫と住み、時々、外交学会の仕事を手伝いながら幸せな老後を送っている。何でも率直に話してくれる韓さんの感想。「中国は確かにハード面では豊かになった。しかしソフトが遅れている。これからの中国の最大の課題はソフト面での進歩がどこまで出来るかです」。
 近代的な首都博物館を見学した際、トイレに入ったら全部の便器にこんなスローガンが貼ってあった。「放出一小歩 文明一大歩」。もう一歩前に出て用を足すことが文明の大きな発展につながる、という意味だろう。係員がトイレ内の清掃に懸命に取り組んでいた。かつてハインリッヒ・シュリーマン(トロイの遺跡を発掘したドイツ人考古学者で「古代への情熱」という自伝がある)が幕末の日本や中国(清王朝)など世界を漫遊した紀行文(「シュリーマン旅行記」)を残している。その中で「日本人は毎日、銭湯に行く清潔好きだが、中国人はどこにでもゴミを捨て汚い」と書き残している。それがまだ続いているといっても過言ではない。そこを克服することが真の近代化になることを中国首脳も十分認識しているであろう。日本はソフト面でまだまだ先生である自信を持っていいのではないか―それが「馬上の花見」(短い旅を意味する中国的表現)の感想である。
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 日中韓3か国のジャーナリストによるセミナーが開催され、3日間ほど北京にいた。1972年の日中国交正常化以来、9回目の北京訪問だが、2003年からは訪ねていなかったので、どんなに大き

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