核コントロールに国民の叡智を  宇治敏彦

 東日本大震災による東京電力福島第1原子力発電所事故の原因を調べてきた4つの調査委員会の報告書が出揃った。政府、国会、民間、東電の4事故調だが、事故原因についてはそれぞれ見解が微妙に違っていて、引き比べて読むと、どれが本当の事故原因であったのか、逆に分からなくなってくる。すなわち①大津波に対する東電の緊迫感、想像力が欠けていたことが深刻な原発事故を生じさせた(政府事故調)②原子力規制当局が電力会社の虜(とりこ)になって事前に対策を立てなかった「人災」だった(国会事故調)③津波による電源喪失で機器が動かなくなった(民間事故調)④「想定外の大きな津波」が原因で、津波の想定が甘かった(東電事故調)、といった具合で、「人災」ならば「誰(あるいは誰たち)の対応が大事故を招いたのか」をはっきりさせるべきだし、「想定外」ならば「事故責任は直接問われない」ということなのか、などなどの疑問が残った。
 以前、民間事故調査委委員会の北沢宏一委員長(科学技術振興機構顧問)と個人的に話していたとき、同氏から「それでも元寇の役(蒙古来襲)と同じように“神風”が吹いたのですよ」といわれた。2011年3月11日、東日本大震災が発生した時、福島の東電第1原発付近では中通りから浜通り方面へと西風が吹いていた。もし風向きが逆であったら、福島県内の放射能汚染は何倍もひどい状況であったろうというのである。
 「もう一つの神風もあったのです」と北沢氏はいった。「トモダチ作戦で救援にやってきた米軍関係者が一番恐れていたのは、福島第1原発4号機建屋のプールに保管されていた使用済み核燃料のことでした。大きな余震があれば、プールが壊れ、燃料が丸裸になってメルトダウンが起きることが想定されたからです。幸いプールが壊れるほどの余震はなかった」
 「風向き」と「余震の程度」。その2つの神風のお蔭で、より大きな放射能被害を防げたというわけだが、このうち風向きは自然現象なので、まさに僥倖だったかもしれないが、使用済み核燃料プールのほうは「神風まかせ」というわけでなく、地震や津波に耐えられるものにしておくことが東電の責任であったはずだ。
 6月にトリニダード・トバゴで開催された世界新聞編集者協会(IPI)の年次大会に参加したさい、現地で手塚義雄大使から中南米情勢を聞く機会があった。 そのとき大使のレクチャアで「これは難問」と思ったのが、日本のプルトニウム計画に関連したMOX(プルトニウム・ウラン混合酸化物)のヨーロッパからの輸送問題だった。MOX燃料を既存の原子力発電所で燃やすプルサーマル発電は九州電力玄海原発、四国電力伊方原発などで採用されたが、安全性の観点から反対論が日本内外に根強い。特に2009年春、ヨーロッパから海上輸送されたときには、当時まだ野党だった民主党の前原誠司、原口一博両氏をはじめ社民党の福島みずほ、重野安正氏ら20人近くの衆参両院議員が国土交通省に対して「電力会社は安全に対する注意を十分におこなっていない」との理由で輸送を承認しないよう連名で申し入れた。輸送ルートの沿岸国も一斉に輸送反対を表明した。こうした反対運動は1999年、2001年のMOX輸送時にも起きている。フランスのアレバ社で製造されたMOX燃料は、英国輸送会社の武装した船によって日本に運ばれるが、ルートとしては①喜望峰・南太平洋回り②南米回り③パナマ運河経由―の3通りがある。
 手塚トリニダード・トバゴ大使によると、パナマ運河を通るルートにはトリニも参加しているカリブ共同体(CARICOM)の25か国がこぞって反対表明したという。南米回りコースにはブラジル、チリ、ウルグアイなど8か国が反対、さらに喜望峰・南太平洋回りにもオーストラリア、ニュージーランドなど15か国が反対といった具合だ。
 プルサーマル計画に必要なMOX燃料を全てヨーロッパから運ぶとなると、あと10回ぐらいの海上輸送が必要といわれている。使用済み核燃料の保有量においては米国(約6万1000トン)、カナダ(約3万8000トン)についで日本が約1万9000トンと第3位につけている。そのわりには安全性に十分配慮していないのではないか、という声が米国などから出ている。米原子力規制委員会では「MOX燃料を本格的に使用する前に、原子炉内で燃料がどのように振る舞うか十分なデータを取る必要がある」としており、米国の学者の中には「安全性に関する十分な事前調査と実験を行わないと人間が政府や電力会社のモルモットになる」と警告を発する声もある。米国の民間調査機関「核管理研究所」が以前、プルサーマル事故について、通常のウラン燃料使用時に比べるとがん死者が2倍以上になるとの試算をまとめたことがある。
 日本政府の基準は「9m落下テスト」「800度30分の耐火テスト」「8時間の耐水テスト」など一応、国際原子力機関(IAEA)の基準に基づいているが、これはもともと陸上輸送を前提にしたもので、長距離海上輸送を想定したものではないという。
 政府の「脱原発」への路線はまだ中途半端だが、急がなければならないのは、「想定外」といった言い逃れができないように、最大限の安全性確保に向けて、核コントロールに叡智を絞ることではないだろうか。
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