クリムト生誕150年のウイーン秋景  宇治敏彦

 IPI(国際新聞編集者協会)理事会に出席するため約20年ぶりにウイーンに行った。前回はベルリンの壁が崩壊した直後の欧州視察が主目的だったので、ウイーンにも何かその影響があるかと思いながら街中を散策したり、NHKのT氏と楽友協会ホールにマーラーの交響曲4番を聴きに行ったりしたものだが、今回はIPI理事会出席が主目的だったので視察中心にというわけにはいかなかった。
 しかし生誕150年を記念したグスタフ・クリムト絵画展だけは見ておきたいと思って、代表作「接吻」(Der Kuss)などが展示されているベルヴェデーレ宮殿やクリムトの壁画がある美術史博物館を訪れた。ホテルの近くを通るトラム(路面電車)に乗ってクリムト生誕150年展が開催されている宮殿前まで行ったが、2.5ユーロの電車賃を入れる車内の料金箱は調子が悪く、運転士さんは料金不要と手を振る。外国人だけでなく乗客全員に対してだから利用客への大判振る舞いのサービスというところか。ウイーンの人たちは外国人に親切だ。通りがかりの女子学生たちがトラムの乗り場まで案内してくれたり、ホイリゲ(新酒のワインを飲ませる居酒屋)では年配の男性が「これがうまい」「これを頼め」などと教えてくれた。さすが観光都市という感じがする。ホイリゲの前に針葉樹でつくった小枝の束が飾ってあると「新酒ワインあり」の合図だそうで、これは日本の酒造店が新酒の出来たとき軒下に飾る小枝の玉とそっくり。写真にとって帰国後に銘酒「七本槍」を製造している友人、滋賀県・木之本の冨田酒造当主に進呈したら、彼も外国にそういう風習があるのを知らなかったと喜んでいた。どちらが先に始めた習慣なのだろう。
 雨の日曜日、早起きして王宮礼拝堂のミサに出かけた。ウイーン少年合唱団がミサの聖歌を歌っていると聞いたからだが、9時過ぎから始まるミサに長蛇の列が出来ていた。やはり少年合唱団お目当ての観光客が多く、日本人の姿も目立った。ミサの合間に歌う少年合唱団には、かつてシューベルトも所属していたという。ただ少年の時は良いが、声変わりや年齢制限などで、大人になっても歌を職業にしている人は少なく、タクシー運転手になったり、観光ガイドになったりする人も多いという。そういえば礼拝堂の案内をしたり、チケットを売る青年たちも昔の少年聖歌隊に思えてきた。
 天使の声を聞いた後、ウイーン旧市街のシンボルであるシュテファン寺院の近くを散歩すると、クリムトの「接吻」を生地にしてつくった傘をさす観光客であふれかえっていた。クリムトが自作の絵に多用した金地の背景は屏風など日本美術の影響を受けたものと伝えられている。遠目からも分かる黄金傘の列を眺めながら、秋色が深まっているだろう日本のことを思った。
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