「マスゴミ」と言われないために 宇治敏彦

 「マスゴミ」という造語が最近、ネット上で多く使われている。「マスコミ」と「ゴミ」を合体した言葉だが、明らかに新聞、テレビなど既存メディア批判の表現だ。そのきっかけになったのは森口尚史なる人物による「iPS細胞臨床応用」の誤報、兵庫県尼崎市の「連続変死事件報道」の別人写真掲載などだ。
 「いずれもプロの記者がきちんと確認していれば防げたはずの誤報だ。しかも、一社にとどまらず、多くの新聞、テレビ、通信社が後追いするなどして同じミスを犯してしまった。その結果、今年のネット世論上、最大級ともいうべき『マスゴミ』バッシングが起きている」とニュースサイト編集者の中川淳一郎氏は十一月三日の東京新聞朝刊に書いている。
 読売新聞が特ダネ的に報じ、共同通信社などが追っかけたiPS細胞臨床応用では米ハーバード大が「森口博士の研究に関連する臨床研究もハーバード大及びマサチューセッツ総合病院によって承認されていない」と全面否定した。読売は誤報を認め社内処分を公表した。追っかけ記事を配信した共同通信も誤報を陳謝した。 読売の検証記事(十月十三日朝刊)によれば「森口氏が今回発表するとしていた論文の『共同執筆者』として名前が挙がっていた研究者らは十二日、『iPS細胞について共同研究したことはなく、論文に自分の名前が記されてことを知らなかった』など、一様に困惑した表情で語った」とあり、この一事を徹底調査することでも森口氏の疑惑を暴くことが出来たはずだ。
 一方、尼崎連続変死事件の顔写真では、NHKをはじめ容疑者として報道した顔写真の本人から「違う」との指摘を受け、陳謝とともに容疑者本人の写真を再報道した。「真実」「正確」を重んじる報道機関としては、まことに恥ずかしい限りで、マスコミに対する長年の信頼が一挙に失われることを報道の仕事に従事する一員として恐れる。
 かつて松本サリン事件で容疑者扱いされた会社員の河野義行氏は危険物取扱主任という資格を持っており、自宅の倉庫にさまざま農薬を保管していたことが疑われた原因にもなったが、後年こう言っている。「農薬からサリンが出来るか、よく調べれば科学合成とはほど遠いことが分かったはず」。 新聞記者の勉強不足を指摘したもので、私たちには耳に痛い言葉だった。
 共同通信の石川聰社長は十一月一日の同社六十七周年創立記念式で、最近の誤報について反省の弁を述べている。「失敗に共通しているのは、思い込み、確認不足、そして疑問が生じたときの方向転換の遅さです。記者をカバーするのがデスクです。大丈夫か、ちゃんと裏づけはとったか、だれがどういう確認をしたのか、踏むべき手順を踏み、冷静にチェックすればたいていのミスは防げるはずです」
 間違いの顔写真を載せた社は読売、毎日、産経、NHK、朝日放送、毎日、関西テレビなどだが、誤報被害にあった女性は「買い物をするにも周りの目が気になり、普段の生活ができない。憤りを感じている」と述べている。こうした補償にも誠実に対応するのは当然だろう。
 私が強く危惧するのは、「ネットには正しい情報と間違った情報が混在するが、日刊新聞はおおむね正しい報道だけを載せている」という「新聞神話」がこうしたミスの多発で一挙に崩れてしまうのではないか、という点である。それでなくともネットの発展で新聞経営は危機に直面している。「報道の信憑性」確保に私たちマスコミは最大限の努力を払わなくてはならない。
(この原稿は「東京沖縄文化通信」用に書いたものです)
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