「広報の神様」の退職祝賀会  宇治敏彦

 秋田県男鹿市に加藤透という地方公務員がいる。だれもが「加藤さん」とは呼ばない。「トールさん」と呼ぶ。そのトールさんが3月末、定年退職になるというので2月2日夜、東京・品川で“卒業”を祝する会合が開かれた。全国から80人を超す人々が集まった。長崎県の田上富久長崎市長、近藤卯一元内閣報道室長、鳥取県日野町の松本利秋町議、福島県塙町の天沼恵子まち振興課長、福岡県福津市の黒田俊彦市民部生活安全課長、広島県豊田郡でみかん農園を経営する峠哲夫園主などなど。中には子連れの女性もいる。その子どもたちが、またトールさんの友達だ。一地方公務員の定年記念にこれだけの人が東京に集まるのは恐らくトールさんが初めで終わりかもしれない。参加者の一人が「彼は人たらし」と評していたが、言いえて妙だ。
 何がこうしたたくさんの人々を結びつけたのか。「広報」である。加藤透は1980年代、秋田県若美町(現男鹿市)の広報担当で、86年12月の広報紙「わかみ」で内閣総理大臣賞を受賞した(日本広報協会主催の全国広報コンクール)。「雪はあったかい」という6ページの特集。除雪作業での協力など地域住民の連帯をどう強めていけばよいか、という課題に取り組んだ記事で、お説教調の原稿でないのが光った。お年寄り家庭での除雪に関してアンケートした結果も掲載されている。「ぐちをこぼしたところで雪は降らないものではありません。だったら向かい合って楽しい雪に、生活に生かす雪にしたいものです。雪と向かい合えば“雪はあったかい”」と結んでいる。
 1990年10月、岡山県真庭市(当時は久世町)の歴史的建造物、遷喬小学校で広報コンクール入賞者たち約30人による全国広報サミットが開かれた。そこには加藤透をはじめ新潟県黒埼町(当時)の五十嵐政人、長崎市の田上富久、地元・久世町の氏平篤正各氏など名だたる広報パーソンが「行政広報の理想像」「行政と市民のあるべき関係」をめぐって熱い議論を展開したものだった。なかでも加藤氏は「広報の神様」といわれるほど全国の広報担当者から慕われた。どういうわけか地方公務員の中でも広報を担当した人たちは「お役人」というより「友達」という関係で仲が良く、仕事を超えての付き合いが続いているケースが多い。それがトールさんの定年をだしに品川に集合したともいえるだろう。その影には日本広報協会の渡邊昭彦事務局長という、これまた「人たらし」の仕掛け人もいるが、こういう会合に顔を出していると、私は公務員たちと話している気持ちがまったくなく、気の置けないジャーナリスト仲間と飲み会をやっている気分になるから不思議だ。自治体行政と市民の関係も、こういうように垣根なしで和気藹々といかないものだろうか。トールさん、それを探求する仕事が定年後の貴方を待っていますよ。
 
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