ヨルダンの月  宇治敏彦

 ヨルダンの首都アンマンで午前3時過ぎに月を見た。それは西方の地平線近くに浮かんでいたが、高台のホテルからカーテンを開けて最初目にしたときは一瞬、太陽かと思うほど大きかった。しかし下方が欠けていたし、光線も太陽のように眩しくなく、まさか夜明け前のこの時間に太陽でもあるまいと、もう一度目を凝らして暗闇の空に浮かぶ光源を見ると、間違いなく月であった。生涯でこんなに大きな月に接したのは初めてだった。
 ここはアンマンのザハラン通りにある円筒形のホテル、ル・ロイヤルの21階で、ランドマークにもなっている。IPI(国際新聞編集者協会)第62回年次大会参加のため同ホテルに7泊した。昨年シリア内戦を取材中に銃撃を受けて死亡したフリージャーナリストの山本美香さん(当時45歳)がIPIの「ワールド・プレス・フリーダム・ヒーロー賞」を受賞するので、パートナーの佐藤和孝氏(ジャパンプレス代表)もやってきた。IPIは同ホテルを用意したが、佐藤氏は断り、別のホテルに泊まった。どうやら、このホテルは以前、2人が取材中に宿泊したことがあるようで、悲しみを倍増したくなかったのだろう。
 ヨルダン駐在の小菅洋一大使によると、シリアの内戦で約55万人の難民が近隣諸国に逃れており、そのうちの12、3万人がヨルダンに来ているという。ヨルダンはそうした避難民対策として国家予算の1割を割かざるを得ない状況だ。
 アンマンから南に30キロのマダバという町はモーゼがエジプト王の迫害を逃れてヘブライ人を率いて出エジプトを敢行した「モーゼ終焉の地」として知られるが、いまやシリア難民キャンプが出来て数万人が暮らしている。砂漠(というより土漠)が国土の約8割を占めるヨルダンは緑が少なく、水に乏しいので難民の生活状況も楽ではないが、小菅大使によれば「避難民がアルバイトでヨルダン人の職場を奪いつつあるので、ヨルダンの失業率が急増している」とか。毎週火曜日には若者たちのデモがあるというが、元凶のシリア内戦を「アラブの春」のように解決しないことには、根本的改善は望めないだろう。土とコンクリートの町、ヨルダンもさまざまな問題を抱えている。
 「大きな月の写真を撮っておかなくては」。そう思ってカメラを探し、10分ぐらい経っただろうか。再び西方を見たら、そこには月はなく、真っ暗な闇が広がっていた。こんなに速く地球は自転しているのだろうか。何か狐につままれたような気になった。
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