いま呼び戻したい歴代首相はだれ?  宇治敏彦


 昨年の総選挙では、戦後初めてといえる2大政党政党制の下での政権交代が実現し、国民の多くは歓迎の意を表した。しかし、鳩山首相や小沢民主党幹事長の「政治とカネ」疑惑などが大きく影響して内閣支持率は半年で半減した。と同時に、民主党政権への期待がしぼんだ分、野党・自民党への期待感というか、戻り現象が起きているかというと、必ずしもそうなっていない。増えているのは無党派層で、このままでは民主、自民の2大政党ではなく、無党派層と民主党という日本的な擬似2大政党になりそうだ。
 鳩山首相が強力なリーダーシップを発揮しないのも国民をいらだたせている一因だろう。そこで表題のような質問を自分自身に発してみた。私の答えは一に池田勇人、二に石橋湛山である。以前、学習院大学法学部で「現代宰相論」という講座を受け持ったとき、約800人の学生を対象に戦後首相の人気度を調べたことがある。そのベスト5は①田中角栄(260人)②吉田茂(246人)③佐藤栄作(80人)④池田勇人(36人)⑤中曽根康弘(31人)の順だった。1位の田中角栄については「功罪相半ばするが、彼の決断と実行は今日にも求められる」、2位の吉田茂については「戦後日本の基礎をつくった」との理由が目立った。私があえて吉田でも田中でもなく池田と石橋としたのは、「経済活性化」と「元気な日本づくり」という2つの理由からだ。
池田の「所得倍増計画」は当初、「月給2倍論」として打ち出されたが、池田はその狙いについて「月給を上げるのではなく、月給が上がるような経済成長を実現すべきである」と述べている。「現代日本政党史録」(第一法規)で池田政治の功罪を担当したとき、私は次のように書いた。
 「単にサラリーマンの月給を10年以内に2倍にしてみせるというのではなく、日本の経済全体の実力(国民所得)を倍増するといっている点に政治リーダーとしての池田の面目があったとみるべきだろう」
 私が1961年に政治部記者になった時、最初に担当したのが「池田番」だった。当時の首相番記者は現在の「ぶらさがり」といわれるような記者会見がなく、ひたすら首相の後を追いかけて、その動静をデスクや官邸クラブのキャップに連絡するのが仕事だった。毎朝早く信濃町の池田邸に出向き、庭先に出来ている番小屋で待機する。来客があれば用向きを取材するが、首相が出かければその後を車で追いかけた。新聞、テレビ10社前後の「番車」が列をなして首相車に離されまいと都内を猛スピードで走った(佐藤内閣の時代に「番車」の接触事故がおきて、爾来、外部での首相追いかけは共同、時事の通信社2社に任せることとし「番車」も1台だけに制限された)。池田首相が首相官邸に入れば、官邸の秘書官室から「いま池田が官邸に入りました」とキャップやデスクに連絡する。秘書官室の隣にはソファが置かれた小さな控え室があり、古参の番記者連中はそのソファの上で花札などに興じて次の首相の動きを待っていた。いまは記者クラブには麻雀台もないが、1960年代はどのクラブでも麻雀、こいこい(花札)、チンチロリンといった賭博が盛んだった。内政クラブ(旧自治省)には国家公安委員長を兼務する自治大臣がやってきて記者と一緒に雀卓を囲む姿も見られた。「古きよき時代」ともいえるが、賭け事で身上をつぶし、最後は山谷でなくなった記者もいたほどだから、「ブンヤ(新聞記者)には家を貸さぬ」といった戦前の風潮がまだ残っていた時代といえるかもしれない。
 話が脱線したが、池田首相は番記者をつかまえては「君らはもっと勉強しろ。日経新聞の縮刷版を番小屋に届けさせるから経済を勉強しろよ」と言っていた。時々、自宅の晩飯やホテルでの懇談会に番記者を招待してくれることがあったが、ご馳走が余ると「もったいないな」といっては折に詰めて記者たちに持たせることを忘れなかった。ケチというより合理主義者だった。
 池田は大蔵省出身の政治家だが、決して官僚臭くなかった。エリートが揃う大蔵省でも「赤ゲット」組と呼ばれて出世コースとは遠い時期もあった。政界入りしてからも庶民感覚を持ち合わせている点が国民から好感をもって迎えられた。「中小企業の一つや二つ倒産しても」「貧乏人は麦を食え」などの放言、失言もしたが、案外、本当のことをずばりという政治家だった。私が懇談で聞いた中で今でも覚えているのは直系の子分の人物評である。「財界に行って100万円借りてきてくれというと、黒金(泰美・元官房長官)は100万円借りてくるが、大平(正芳・元首相)は150万円借りて俺には100万円渡すんだ」。池田内閣の第2次内閣で大平が官房長官から外相に回り、官房長官に黒金が起用されたころのことで、多分、池田と大平の関係が一時微妙になったことと関係があったと思える。
 国民が待望した政権交代が昨年実現したにもかかわらず、それが今日、逆に失望に変じているのは多分に「表の鳩山、裏の小沢」という政権の二本柱の人間性と政策実現能力に原因があるのではないか。下向き加減の国民の気持ちを上向かせるには、あの所得倍増、東京オリンピック、東海道新幹線、高速道路など日本人の夢と希望を大きく膨らませた池田政治の再来ではないが、「今日的池田勇人」が必要な気がしてならない。(文中敬称略)
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