運転免許証を返上して思ったこと  宇治敏彦

 今年9月、喜寿を迎えたのを機に1965年(昭和40年)取得以来ほぼ半世紀になる自動車運転免許証を返上して、身分証明にもなる「運転経歴証明書」の交付を受けた(手数料1000円)。運転免許証を得てからスバル360を買った直後に、京都新聞の岐部堅二君(早大の同級生、故人)を助手席に乗せて銀座中央通りを走った昔日が懐かしく思い出された。
 足かけ50年、幸いなことに人身事故を起こすことはなかった。側道から広い道に右折しようとしたとき、右から来たオートバイと接触しそうになって、オートバイの若者が横転したこと。交差点を左折しようとしたとき、直進してきた自転車と接触して、お互いの車体が傷ついたケース。渋滞の中央道で後ろの車から追突されたこと。いずれも軽微な事故だったが、軽重を問わず自動車事故は、いつまでも後味が悪い。
「事故はだめ! 長生きしてね おじいちゃん」。免許証を返上した時、「達成証」(「あなたはこれまで交通社会の一員として交通ルールとマナーを守り安全運転を達成されました。ここに証します」という警視庁交通部長の証明)とともに渋谷警察署からもらったファイルに、そんな川柳がプリントされていた。
 車を手放して思うことは、やはりレジャーに出かけるときの不便さである。行動範囲が鉄道、バスの便がある場所に限定されがちだ。「道の駅」でそれぞれの地の特産品を求める楽しみもなくなってしまった。私の場合は都心に暮らしているので日常生活面では車なしでも生きていける。だが地方暮らしなら車は生活上の必需品だ。毎日新聞の記者が「軽い脳梗塞で免許返上の決断を迫られている地方暮らしの83歳の父が、説得しても『大丈夫』と言って聞かない」と、ぼやくコラムを書いていた。「運転の禁止は誇りを傷付けられ、人生の終点を意識させられるような感覚なのだろう。規制のあり方、脱クルマ社会の整備、認知症への正しい理解…。存外に広く根の深い問題だ。父を説得する言葉を私はまだ持たない」(清水忠彦氏の「憂楽帳」、2013年3月26日、毎日夕刊)
 免許返上した私の愚痴などは「贅沢な悩み」の範疇に違いない。老父を説得する言葉があるとすれば「大きな事故を起こさぬうちに」ということしかないだろう。
 「高齢者運転免許自主返納サポート協議会加盟企業」による優待があって、運転経歴証明書を提示するとホテル、カラオケボックス、ハイヤーなどの1割引やデパートでの自宅配送無料といった特典がある(詳細は警視庁などに問い合わせ)。小生はまだ利用していないが、美術館割引や動物園・水族館での記念品贈呈もある。同制度が拡大すれば、高齢者の自主返納がもっと広がるかもしれない。
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