ミャンマーでの「民主化」への闘い   宇治敏彦

 「報道の自由への道のり」。3月27日から3日間、ミャンマーで開催された国際新聞編集者協会(IPI)の第64回大会に参加した。そこでは政治体制の変革過程で「表現の自由」を確保するのに苦闘しているジャーナリストの姿が印象的だった。世界45国から約270人の報道関係者が参加し、「紛争報道」「ヘイトスピーチ(憎悪表現)」などをめぐり活発な議論が展開された。
 町を走る車の9割強が日本製というヤンゴンでは渋滞が激しく、ミャンマー経済が着実に発展していることを実感した。大会の開会式に来賓として出席したイエ・トゥ情報省担当大臣は「わが国は民主主義国家への改革過程にある。後戻りはしない」と明言し、国際ジャーナリスト社会との関係緊密化にも言及した。
 しかし会場ではマスクをした一青年が情報相の挨拶中に立ち上がって「ジャーナリストへの暴力を止めよ、逮捕を止めよ、投獄を止めよ」と書いたプラカードを掲げて抗議する場面もあった。3日目のメディアツアーで「セブン・デー・デーリー」紙の編集局を訪れた際、検閲対象になった紙面を見せてもらった。なかにはアウンサンスーチーさんの写真もあった。「最近は緩和される傾向にあるが、以前はスーチー女史の好きな赤いバラを紙面に載せるのもご法度。だから黄色のバラに変えざるをえなかった」と女性編集者が説明してくれた。
 地元有力メディアグループ「ミィツィマ」はメディア特集を組み、「ミャンマー・ジャーナリストたちのジレンマ」と題して次のように書いていた。「イエ情報相の態度は『不誠実』だ。最近も『ミャンマー・ポスト』紙が軍関係の国会議員に批判的記事をのせたとして編集局長と記者が2か月間の投獄処分になった。記者たちは用心深くならざるを得ない」。大会に来賓として出席した情報相が挨拶後も丸2日間、大会論議を傍聴していたのも「地元メディアに無言の圧力をかけているのかな」と詮索したくなった。同国における「報道の自由」はまだまだ発展途上というところだろうか。
 「ヘイトスピーチ問題」も今大会では焦点の一つだった。日本では在日韓国人へのヘイトスピーチが社会問題化したが、中東やアジア諸国でもイスラム教徒、仏教徒、キリスト教徒などの間で、さまざまな敵対表現が使われ、大きな問題になっている。仏教徒が約7割を占めるスリランカから参加した人権擁護活動家、マノリ・カルガンピティヤさん(サバミマ新聞編集者)は「昨年1月にコロンボ南西部で開かれた過激派仏教集団の抗議集会で4人が死亡、約80人がけがをする事件があった。イスラム教徒の商店や家が焼かれ、破壊された」と報告するとともに「主要メディアを活用してヘイトスピーチを止めさせる動きを強めるべきだ」と強調した。大会を傍聴していたドイツ人女性は「言葉だけでなく絵画や音楽を通じての嫌悪表現もなされている。これらの行為を防ぐには教育が必要で、国際機関による防止キャンペーンをやるべきだ」と感想を漏らしていた。筆者は「ナショナリズムよりヒューマニズム」の人類愛的精神を広める以外に、この問題を解決するのは難しいと思う。宗教問題のパネラーとして登壇した立正佼成会の庭野光祥次代会長は「人間の弱いところを救うのが宗教の役割であり、宗教間の対話も重要だ」と指摘していた。
 「危機や緊急事態での倫理的報道」に関するセッションに登壇した河北新報の山崎敦記者は、4年前の東京電力福島第一原発事故直後の自らの体験を具体的に語った。「放射能汚染を避けるため記者たちは現場に近づけなかったが、良心の呵責に耐えきれず社を辞めた記者もいた」。
 大会中に各国事情を報告する国内委員会も開催された。筆者は①フリージャナリスト後藤健二氏の救出に各国が協力してくれたことへの感謝②特定秘密保護法に対する新聞協会の声明③産経新聞前ソウル支局長の拘束に対する抗議、の3点を報告した。
 今大会で理事会議長はガリーナ・シドロバさん(ロシア)からジョン・イヤーウッド氏(米国)に代わった。また日本側理事も宇治から小松浩毎日新聞論説委員長に交代した。理事在任中の新聞協会事務局の全面的な協力に深く感謝したい。会員や会費の減少でIPIも厳しい運営に直面しているが、表現の自由確保に欠かせない国際組織である。協会国際委員長として今後も支援を惜しまないつもりだ。次回大会は来年、ドーハ(カタール)で開催される。(この原稿は4月14日の新聞協会報に掲載された記事を手直ししたものです)









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