「芥川賞」又吉直樹がうける訳とは  宇治敏彦

 毎年2回の芥川賞・直木賞の贈呈式には、時間が許す限り出席しているが、今年8月21日の贈呈式ほど賑わったことはなかった。お笑い芸人の又吉直樹さん(35歳)が小説「火花」で芥川賞を受賞したからであろう。帝国ホテルの大きな部屋には、表彰台の前を大きく取り囲むように記者とカメラマン用のコーナーがロープでつくられていた。芥川賞選考委員の代表が遅れたので、講評は直木賞の東山彰良さん(受賞作「流」)から始まり、そして芥川賞の羽田圭介さん(受賞作「スクラップ・アンド・ビルド」)と又吉直樹さんへと移った。両賞の選考委員によれば「直木賞は満場一致という稀有な例」で「芥川賞も文句なく2人に決まった」という。又吉さんの「火花」は既に230万部以上発売されており、芥川賞受賞作品としては村上龍さんの「限りなく透明に近いブルー」を上回る人気だという。
 実は小生も受賞式当日に「火花」を求めて、途中まで読んだところで出席した。あわよくばサインをとの私欲もあったが、残念ながら主催者側の御達しでサインは駄目だった。ジャケットにネクタイというお笑いタレントらしからぬ出で立ちの又吉さんに対する第一印象は「この人、ホンマにお笑い芸人なの?」だった。式後に名刺を出してあいさつした際も「無口な学者か評論家」といった感じを受けた。
 受賞作の「火花」は徳永というお笑い芸人が主人公で、奇想天外な言動に終始する先輩のお笑い芸人・神谷と行動をともにしていく物語だ。作者自身を連想させる徳永が、多大の借金を抱えながらも自分を飲み食いさせてくれ神谷の芸熱心さに惹かれつつ、最後は先輩が胸にシリコンを入れて巨乳にする姿にあきれ返る。
「神谷さんは、窓の外から僕に向かって『おい、とんでもない漫才思いついたぞ』と言って、全裸のまま垂直に何度も跳ね美しい乳房を揺らし続けている」。
これがラストシーン。作者は、この小説で一体何を言いたい、書きたいのだろう。贈呈式のパンフに乗った又吉さんの「受賞のことば」にこんなエピソードが載っている。
「久しぶりに帰省した。父は痩せ細り、そこだけ以上に膨らんだ腹をさすりながら『こうなったら、もうあかんのぉ』と弱弱しくつぶやくと、自分の部屋に戻った。朝が来る前に僕は家を出ることにした。父の部屋から啜り泣くような声が聞こえた。真っ暗な廊下に立ち、僕はドアに耳を近付けた。耳を澄ますと、父はバラエティ番組を観ながら、楽しそうに笑っていた。全く泣いてなどいなかった。僕の安易な想定を現実は簡単に乗り越えて行く。そんな現実を、越える表現を目指したい」
つまり父は神谷先輩と同じように、真面目人間・又吉さんの心配をよそに現実の人生を堪能し、したたかに生きているのだ。そこを巧みに描写しているのが「火花」である。お笑い芸人の芥川賞。それは外面の「うけ」であって、作家・又吉直樹が小川洋子さんなど9人の選考委員から「うけた」内面の理由は、「人間とはよそ様が想像するより意外にしたたかな存在」という上記のような人間観察にあったのではなかろうか。
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