好きな言葉④ 道を聞くなら盲人に聞け  宇治敏彦

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 大分前の事だが、女優の水沢アキさんが盲人の音楽家と目黒区の広報で対談しているのを読んで「そういうことか」と感心したことがある。水沢さんのお父さんが出勤途上の駅で毎日、盲人女性と出会うのでホームから転落しないよう案内をしてあげたそうな。ところが某日、お父さんが風邪をひいて案内が出来なかった日があった。その時に盲人女性はホームから転落する事故を起こした。普通ならここで「やっぱり私が同道できなくて済まなかった」と反省するところが、父親の反省は違っていた。「私が毎日案内してあげたせいで彼女の持ち前の能力を弱めてしまったのではないか」と。
 対談相手の盲人音楽家は、これに応えて次のような話を披露した。「私が横断歩道を渡ろうとしていたときオートバイの青年と接触事故を起こした。青年は陳謝したが、私は『早く行ってください。盲人を傷つけたと分かると罪が重くなるから』と。彼を許してあげたことで、私も救われた気持ちになり、その後の人生に自信が持てた」
 盲人は確かに弱者ではある。だが弱者扱いされることを嫌う側面もある。前回の「好きな言葉」で取り上げた瞽女の小林ハルさんは、相手の着物の色まで分かったという。
 「道を聞くなら盲人に聞け」。私も通勤の際に地下鉄霞ヶ関駅で下車する盲人男性に行き合うことがある。白い杖は使っているが、彼の歩く速さに私はついていけない。健常者とは違う能力が自然に備わっているのかもしれない。道を尋ねるのに健常者に聞くより盲人に聞いた方が的確に分かりやすく教えてくれるというのも、そのようなことを指す言葉だ。盲人ではないが、「これは道案内の名人だ」と感じ入った人がいる。将棋の永世名人だった大山康晴さん(1992年没)と赤阪見附に近いフグ料理屋で会食した際の事だが、確か当時は杉並方面にお住まいだったと思う。会食が終わりに近づくと奥様に「車で迎えに来てほしい」と電話した。その道順説明がまことに見事で、まるで詰将棋をしているように感じた。大山さんにとっては初めてのお店であった。瞽女の人たちも同様に道に精通していたのであろう。程好い時間に「大山先生の奥様がお迎えに見えました」と店の人から連絡があった。
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