「報道の自由」と「ジャーナリストの安全」  宇治敏彦

 中東を中心に世界各地でテロや紛争が続いており、それらを取材するジャーナリストたちも生命の危険にさらされている。かつてのベトナム戦争のように戦火が飛び交う中での取材ではなくても、いつどこで何が起こるか分からないテロなどの不気味さが記者たちを不安に陥れている。
 トルコの首都アンカラ中心部で10月10日に発生したテロ事件の死者は97人(同12日時点)。さらの多数の重傷者がいるとの報道だから犠牲者の数は最終的には100人以上に達するだろう。同国のエルドアン大統領はPKK(反政府左派組織クルド労働者党)との対立を深めているが、一般市民もPKKほどではないにしても近年、独裁体制を強めるエルドアン大統領に不満・批判を強めている。
 筆者は昨年9月、イスタンブールを訪ねてIPI(国際新聞編集者協会)理事会に出席するとともにCPJ(ジャーナリスト保護委員会)のメンバーと一緒にトルコの新聞社や放送局を訪問して報道の自由度を調査した。その時も「ザーマン」「ミリエット」といった主要新聞社の幹部から聞いたのは「エルドアン大統領の独裁ぶりが一段と強まっている」ということだった。「以前は進取性に富んでいたエルドアン氏は最近、批判的記事を書いた記者を次々に処罰している」と語った大手紙の編集幹部も私の帰国後、投獄されたと耳にした。また私たちを案内してくれたトルコIPIメンバーのカドリ氏も職を解かれたようだ。反政府的と目されるジャーナリストが次々と大統領の標的になっている。
 今年来日したトルコのジャーナリスト6人が9月30日、日本記者クラブで会見した。出席者は「トルコにはもうメディアの自由がない」と嘆息していた。「ミリエット」紙に23年間、記者として働き、ひと月前に解雇された女性記者、メフメシュ・エビンさんは「既に1000人以上の市民が大統領を侮辱したとの理由で起訴されているが、大半はジャーナリストです」と報告した。
 10年以上前のことだが、当時首相だったエルドアン氏が来日した際、日本記者クラブでの会見を筆者が司会した。その当時のエルドアン氏は、進取精神にあふれた政治家に思えた。ところが権力の座につく時間が長くなるにつれ、「政敵に殺されないようエルドアン大統領には食事のお毒味役がついている」「ルーマニアの故チャウシェスク元大統領のような豪華な大統領公邸をつくった」「厳しい経済情勢にもかかわらずトルコ随一のモスクを建設した」などなど芳しくない噂が伝わってくる。いわば「絶対的権力は絶対的に腐敗する」を地で行くような指導者ぶりで、イスタンブールでもヒトラーに似せたエルドアン大統領の戯画が町中に登場したこともあったという。
 11月の総選挙を挟んでジャーナリズムとエルドアン大統領の対立が続くだろう。最終的には数年前の大市民行動に発展するかもしれないが、それだけトルコの記者たちの危険度も増大することは間違いない。
 トルコだけではない。日本新聞協会が30年以上続けているアセアン記者招聘計画で今秋来日した4人の記者のうちフィリピンから来たバーニス・カミール・バウゾン記者(マニラ・タイムズ国際部記者)は10月1日、プレスセンターで開かれた会合で次のように報告した。
 「2014年に公表された世界における報道の自由度ランキングで、フィリピンは180か国中149位だった。一時は156位に下がったこともある。アキノ三世が政権を取った2010年以降、フィリピンでは26人の記者が殺害されている。フィリピン・ジャーナリスト同盟は政府の無関心が攻撃者をつけあがらせ、記者が殺害される危険性が依然なくなっていない」
 もっとも同記者によると、マニラ市内は安全で、危険度が高いのは地方都市だという。フィリピンには10の高級日刊紙、22の大衆紙、52の地域紙があるそうだが、パウゾン記者によると「マニラ・タイムズのような主要メディアはアキノ政権に極めて批判的で、ほぼ毎日、現政権に対して論議を呼ぶような暴露記事やリポートを掲載している。名誉棄損訴訟や脅迫電話を除けば、マニラ・タイムズは自由に意見表明し、記事を出すことができる」という。
 NGO「国境なき記者団」によると、日本の報道自由度は2011年の民主党政権下で11位にまで上がったが、現在は61位に大幅後退している。その理由は2011年の東日本大震災時の東電福島第一原発の放射能漏れ事故で国民が知りたがった放射能被害の実態が十分報道されなかったことや、2013年に特定秘密保護法が成立したことなどが大きく影響している。ちなみに報道の自由度が高い国はフィンランド、オランダ、ノルウェーなど北欧諸国。反対に自由度が低い国は中国、北朝鮮、ソマリアなど。特に中国では最近、紙の新聞以上にネット取り締まりが強まっているようだ。「京華時報」の8月26日の記事によれば、国家インターネット情報弁公室というセクションが300近いサイトを反社会的として削除したという。既に中国では「インターネット安全法」の草案が公表されており、国家安全のためアクセス制限をすることがあるとしている。
 一方、IPIは「デス・リスト」といって毎年、報道取材中に死亡したジャーナリストのリストを発表しているが、2009年以来、その数は毎年100人を超えており、近年では2012年の133人が一番多かった(2015年は原稿執筆時点で62人)。
 政治権力と報道界の関係は昔から緊張関係にあるが、報道が核心に迫るほど記者の身に危険が及ぶというのはいかがなものだろうか。もとより根拠なき報道(ガセネタ)であれば記者側がペナルティーを受けるのも当然だが、まっとうな報道や批判に対してもペナルティーを科すというのは政権の横暴と言わざるを得ない。トルコなどが一日も早く「報道の自由」「記者活動の自由」を取り戻すよう願っている。
(注)この原稿は安保研究会のリポート用に作成したものです。
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