民主主義とマスメディアと記者クラブ  宇治敏彦


 日本政治総合研究所(白鳥令理事長)の理事をしている関係で毎年、外務省とJICA(国際協力機構)が招聘する外国の国会議員たちに「民主主義とマスメディア」というテーマで講義している。今年は3月にトルクメニスタンから国会議員8人と国立大学教授など合計17人が来日し、国会運営セミナーという形で行われた。私は例年のように「民主主義とマスメディア」と題して2時間講義したが、質問が集中したのは日本の「記者クラブ」制度についてであった。何人かの議員から「記者クラブの法的根拠は何か」「政権に反対の記事を書く記者はクラブから除名できるのか」「クラブに入って政治活動することは認められるのか」「クラブには個人で入るのか、新聞社として入るのか」などの質問が飛び出した。ロシア人通訳は「トルクメニスタンには記者クラブという制度がないから理解が難しいのでしょう」といっていた。
 1960年、私は記者になって最初に赴任した群馬県前橋では県警クラブに所属し、翌年、東京に戻ってからは政治部で首相官邸クラブ(永田倶楽部)配属になった。記者クラブが存在する中で駆け出し記者時代を過ごしたせいで、クラブ制度に違和感を持った記憶はない。ただ常に思っていたことは記者クラブとは取材の出発点であって、終着点ではないという点だった。記者が楽をしようと思えば、官庁側の発表をそのまま記事にすることでひと通りの原稿はできるのだが、本当のジャーナリストはそこから補強取材をしたり、疑問に思った点を関係者に当たったりして記事を完成させていく。
役所側にしても一人一人の記者に説明するのは大変な手間と時間を要するから記者クラブを通じて発表を一回で済ませるのは合理的なことであり、記者側も会見での質疑応答を通じて問題点がどこにあるかの理解を深めることができるなど、記者クラブ制度にはそれなりのメリットがある。
問題点は、記者クラブが新聞協会やNHKおよび民放連加盟社の報道機関の限られてきたことであり、そこは大いに開放すべきだろう。民主党政権が誕生したのを機にフリーランスの記者やインターネットメディアが記者会見に参加できるようになったことを歓迎したい。もう20年ぐらい前のことだが、米国のブルームバーグ通信社が、かぶとクラブ(東京証券取引所の記者クラブ)のオブザーバー会員から正会員にしてほしいと申し込んできた。その理由は、こうだった。
「決算発表時に大量の決算資料が正会員の棚から順番に配られ始めてオブザーバー会員の棚に来るまで約1分30秒かかる。そのことは日本の通信社に比べて米国の通信社の資料入手時間が1分30秒遅れることを意味し、ひいては米国の株主が日本の株主に比べて株取引の情報を得るのが1分30秒遅れることにもなる。これは情報にイコールアクセスできないという点でアンフェア(不公正)ではないか」
新聞協会では、この訴えを受けて外国報道機関の記者クラブ加盟問題小委員会をつくって論議した。私もメンバーの一員として討議に参加したが、米国での発表方法を調べてみると、たとえば商務省では統計発表の場合、記者団に一室に集まってもらい、資料を配布したら30分間、その部屋を閉鎖してしまう。30分したら「ハイどうぞ」と部屋のドアを開ける。こうした方法をとることで情報へのアクセスが不公平にならないよう配慮しているのだ。私たちも、これを見習って外国報道機関でも2社以上の推薦など正規の手続きがあれば正会員としてのクラブ入会を認めるとの開放政策に踏み切った。それが今回さらにオープンな方向に進んだのである。
日本の記者クラブ制度の歴史は1890年(明治23年)の帝国議会開設にさかのぼる。当初は記者たちが議場内でメモを取ることすら許されなかった。1900年代になってから記者活動が活発化し、各省庁に次々と記者クラブが誕生した。しかし、本当に自由な取材・発表ができたかといえば、軍部や警察が権力を強めた昭和になってからは取材にも制限が強まり、ついには大本営発表的な記事ばかりになったのである。
トルクメニスタンの国会議員たちにも申し上げたのだが、私が一番強調したいのは「新聞の自由」と「民主主義制度の徹底」とは車の両輪であり、どちらも健全に発展しないと民主政治は育たないということである。政権にとっては邪魔な反対意見でも、その発表をさまたげないという精神こそ失ってはなるまい。
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