「見える化」の必要性  宇治敏彦

甘利明経済再生大臣が建設会社から口利きの見返り名目で現金を受け取っていた疑惑問題で、通常国会は冒頭から波乱含みである。国会後に参院選挙(ひょっとしたら衆参ダブル選挙)を控えているだけに与野党とも、下手な妥協はできない。安倍晋三首相の施政方針演説が行われた1月22日の衆院本会議で、甘利大臣の経済演説が始まると大半の野党議員が退場したのも「辞任しなければ国会審議に応じないぞ」という脅しでもある。審議ボイコットは沢山見てきたが、大臣の所信演説を聞かずに退場というのは、あまり記憶にない。それにしても自民党、いや政界全体の金権腐敗体質は、「三角大福中」時代に比べたら小粒化したとはいえ、根絶とはいかないようだ。大臣室、議員会館といった場を利用しての現金授受は、第三者から「見えない」ケースが大半だ。「人間は見えないところで悪事を働く」のは昔から変わっていない。
 ハインリッヒ・シュリーマン(トロイアの遺跡発掘で知られる考古学者で「古代への情熱」などの著書がある)は、若いとき貿易商をしていたが、ゴールドラッシュのアメリカで巨万の富を築くと、41歳ですべての経済活動を止めて、43歳から念願のトロイア発掘の前に世界漫遊の旅に出た。「シュリーマン旅行記 清国・日本」(石井和子訳、講談社学術文庫)が興味深い。中国(当時の清国)の天津や北京がいかに汚い町で、人々も卑しいかを具体的に記述したあと、横浜港に着いて江戸時代の日本人の潔癖さ、正直、きれい好きにびっくりしたと書き残している。「日本人が世界でいちばん清潔な国民であることは異論の余地がない。どんな貧しい人でも、少なくとも日に一度は、町のいたるところにある公衆浴場に通っている」「(役人がチップを拒否したことに関して)彼らに対する最大の侮辱は、たとえ感謝の気持ちからでも、現金を贈ることであり、また彼らのほうも現金を受け取るくらいなら『切腹』を選ぶ」などと称賛している。
 ブラジル移民をした日本人に対する現地の評価も「勤勉」「正直」「親切」「真面目」といったものであった。
 筆者の疑問は、こうだ。本当にそうなのだろうか。多くの人が見ているところでは、確かに「正直」「親切」などに見えるが、人が見ていないところでも果たしてそうなのだろうか。甘利大臣のケースに限らず、カレーチェーン壱番屋(愛知県一宮市)が廃棄した冷凍カツの不正転売事件、東芝の不適切会計問題、旭化成、三井不動産子会社などが販売した杭打ち工事のデータ流用、日本マクドナルドホールディングスでの異物混入苦情、いまだに衰えぬオレオレ詐欺など昨年来、さまざまな不正・腐敗・詐欺事件が続いている。名門料亭「吉兆」の食べ残し料理のまわし事件など、まだ鮮明に残っている記憶もある。これらの事件や疑惑に共通するのは「誰も見ていないだろうから」「外部の人間には分かるまいから」という当事者の心理である。
 たまたま乗ったタクシーの運転手さんが漏らした一言が常に私の頭にある。「お客さん、日本人の道徳心はひどいですよ。たばこの吸い殻だけでなく、ジュースの空き缶、噛んだガム、不要のごみ。何でも捨てていくのです。誰も見てないと思って捨てるんですが、タクシーの運転席からは良く見えるんですよ。日本人は模範的な人種なんて私は思っていません」
 多分、彼のいう通りだろう。皆が見ているところでは格好をつけているが、だれも見ていないところでは小悪、中悪、大悪をしがちなのが日本人に限らず、すべての人間の本性に違いない。とすれば「見える化」をさまざまな場で広げていくことしか、皆の心の中にある「悪魔」の出番を食い止める道はないのでないか。
スポンサーサイト

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

プロフィール

magazinehaniwa

Author:magazinehaniwa
ブログ雑誌埴輪へようこそ!
埴輪同人 宇治敏彦・小榑雅章
連絡先
 magazinehaniwa@yahoo.co.jp

最新記事
カテゴリ
最新コメント
月別アーカイブ
FC2カウンター
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR