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「追っかけ女性」が書いた憲法読本   宇治敏彦

 「僕には“追っかけ女性”がいるんだよ」。信濃毎日新聞の主筆を務めた中馬清福氏(2014年11月没)が生前、筆者にそう言っていた女性フリーライターの金井奈津子さんが最近、「幸せのための憲法レッスン」(かもがわ出版)という本を出版した。彼女は長野県松本市在住で、週3回発行の地域紙「松本平タウン情報」に中馬氏との対話をもとにして5年半、「憲法をお茶の間に 中馬清福さんに聞く」として連載した。その連載は第20回平和・協同ジャーナリスト基金賞の「荒井なみ子賞」(朗読劇団「八月座」座長を記念した賞)に選ばれている。
 「25歳になるまで一度も選挙に行かなかった」というノンポリの金井さんが、信毎に定期掲載されていた中馬主幹のコラム「考」を読んで同氏に「憲法とは何ですか」と教えを乞うたのが連載を始めたきっかけだった。いつも信毎の主筆室で、金井さんが素朴な疑問をぶつけ、中馬氏が懇切丁寧に答えるパターンだったようだが、太平洋戦争末期の沖縄戦に関しては、こんなふうだった(以下、同書からの引用)。
*        *          *
 中馬「金井さんは、長野県民として、沖縄戦をどう考えますか?」
 金井「………?」

 意味がわからなかった。ぼんやり顔の私を尻目に、中馬さんは何やら電話で車の手配をしている。

 中馬「はい、参りますよ!」
 金井「ど、どこへ?」

 バタバタと車に乗せられ向かったのは、長野市にある信毎本社から車で30分の距離にある松代大本営跡だった。
 沖縄戦が行われている間に、「本土での決戦に備えるため」皇居、政府、軍司令部の移転先として掘られた地下壕だった。3つの山の地下にアリの巣のようにトンネルが入り組み、総延長10キロに及ぶ。
 中に入って驚いた。沖縄で見てきた、自然の洞窟を使った地下壕とは全く違う。(中略)まるで地下都市だ。
 沖縄戦は、この工事が終わるまでの時間稼ぎとして行われたのだ。「(沖縄本島の)南部に移動して戦いを継続せよ」との命令は、松代大本営がまだ完成していなかったからだと、多くの史実が語っていた。
 沖縄の9万4000人の人々が逃げ惑いながら殺され、幼い子どもたちも巻き込んで「自決」していたその時、軍の中枢は、自分たちと偉い人だけを守るための巨大な壕を造らせていた。軍とは、何を守るためのものか――。嫌というほどわかった気がした。

 中馬「明治の日本は『富国強兵』を基本に据えて以来、この国の政治は軍を甘やかしました。軍の暴走の結果は、あなたが、知覧や沖縄で見てきた通りです。
 1931年の柳条湖事件から1945年の敗戦までの日本人の犠牲者は310万人、日本軍が命を奪った外国人の数は2000万人。その何倍もの人が、愛する家族や恋人を失い、収入を絶たれ、絶望し、人生を狂わされました。その大きな犠牲のもとに、日本は、天皇が定めた『大日本帝国憲法』から、国民が定めた『日本国憲法』への転換を果たしたんです」
*        *        *
 筆者も2010年11月、「埴輪」同人の小榑雅章君と信州を旅した時、中馬氏に松代の大本営跡(地下壕)やコンクリート庁舎(天皇御座所)などを案内してもらった。「百聞は一見に如かず」で、太平洋戦争末期のこうした史跡を見ると、当時の日本政府と軍部が人間集団としてのコモンセンス(常識)を完全に放棄・忘却して、狂気で行動していたとしか思えない恐怖と戦慄を抱かざるを得なかった。
 古い資料を整理していたら1996年(平成8年)、初の小選挙区比例代表制による第41回総選挙を前に中馬氏が朝日新聞朝刊1面(同年9月25日)に「この国のゆくえ」と題して書いた記事の切り抜きが出てきた(当時、彼は朝日の論説主幹だった)。
 「この国のゆくえを決める選択肢には二つの大きな流れがあるのではないか。第一は、政治家と官僚がデッサンする従来型の上からの改革だ。これが行き詰まりつつあることは明らかで、国民の政治不信や、増える無党派層の一因である。(中略)第二は、政治の目を暮らしのなかの危機に向けさせ、根気よく解消していく。そんな作業の積みあげによって進める、下からのシステム改革だ。その成否は、有権者がどこまで政党や政治家を使いこなし、動かせるかにかかっている」
 残念ながら、日本の政治はまだ有権者が政党や政治家を使いこなすレベルに至っていない。むしろ、その逆の方向へ「上から目線の政治」が加速しているのではないか。それに有権者が早く気づき、舵を修正しないと、太平洋戦争当時の悲劇を再来させることになるのではないか、と筆者は危惧している。金井さんの「幸せのための憲法レッスン」は、こうした時期に特にノンポリの人々に読んでほしい好著である。
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