Elephant in the room   宇治敏彦

 Elephant in the roomという英語がある。直訳すれば「部屋の中の象」だが、皆そこに象のような大きなものが存在するのは認識しているだが、「見て見ないふりをしている」という意味だ。
今の政権与党(自民党、公明党)における多くの議員の安倍首相に対する態度が、このごろElephant in the roomのようになってきたと筆者は見ている。伊勢志摩サミット後に安倍首相は、消費増税の再延長に関して麻生副総理兼財務・金融相、谷垣自民党幹事長に「2017年4月の再引き上げ時期(8%を10%に)を2019年10月まで2年半ずらしたい」と提案した。その背景には「現在の経済状況が2008年のリーマン・ショック前の状況と似ている」(5月26日夜の伊勢志摩サミットでの発言など)からという基本認識がある。また7月10日投票が予定される参院選を意識して有権者の与党離れを食い止めたいとの思惑も当然働いている。さらに言えば、国会での党首討論会で岡田民進党代表から「消費税の引き上げを再延期すべきだ」と先制攻撃されたことへの対抗策もあったろう。
 だが麻生氏が再延期に反対し、仮に再延期するなら「衆院を解散すべきだ」と述べたように与党内でも異論が出ている。
 そもそも「経済状況がリーマン・ショック前の状況に似ている」との認識にもG7サミットでドイツのメルケル首相から異論が出された。このためサミット宣言では「リーマン・ショック」という言葉は使われず、次のような表現に落ちついた。
 「世界経済の回復は継続しているが、成長は引き続き穏やかでばらつきがある。前回の会合以降、世界経済の見通しに対する下方リスクが高まっている」
 メルケル独首相はG7後の会見で「経済成長に構造改革が必要だ。日本も従来型の財政や金融政策だけでなく、人口減少に対応するための教育や女性の社会進出が重要だ」とコメントした。
 これは経済協力開発機構(OECD)が今春発表した「日本。高齢化社会における成長促進と幸福度の向上」と題する対日提言を踏まえたものとみられる。グリアOECD事務総長は先に来日した際、安倍首相との会談でも消費税増税に関して「予定通り増税し、将来は15%まで引き上げるべきだ」と助言した。その背景には①日本の幸福度は他のOECD加盟国に後れを取っている②急速な高齢化で、日本人の一人当たり所得がOECD主要国に追いつくことを困難にしている③男性の雇用率より18%低い女性の雇用率を改善すべきだ―といった対日提言がある。換言すれば、消費税が高くても、それに見合う国民向けの政策が行われていれば、幸福度は増すというのだ。確かに欧州諸国の消費税は20%前後と日本に比べればはるかに高いが、子育て支援が充実しており、医療費や教育費(大学も含めて)は無料といった見返りもある。費用対効果のバランスが取れている。そこが日本と違うから「リーマン・ショック以前の状況」を理由にして増税を延期しようとの安倍首相の見解に違和感を覚えるのだろう。
 国際通貨基金(IMF)の世界経済見通し(2016年)ではG7のうち米国の成長率が2.4%が最も高く、以下英国(1.9%)、ドイツ、カナダ(1.5%)、フランス(1.1%)、イタリア(1.0%)の順で日本(0.5%)の成長率は最低だ。つまりメルケル氏ら欧州の首脳からすれば「安倍首相の『3本の矢』政策が成功していないのではないか」ということで「同一労働同一賃金」「女性労働者の待遇改善」「出産負担への全面支援策」「外国人労働者への優遇措置」(いずれもOECDの対日提言)といった構造改革が急務と見ている。
 「安倍独裁政権」と言っても過言ではない自公連立政権の政策に最近、与党内でもようやく疑問の声が出てきたのは、日本の政治にとって歓迎すべきだろう。それでも安倍首相が独走するようなら安倍政権はWhite elephant(金がかかり過ぎる厄介者)になる可能性があろう。白い象はタイでは神聖視され、飼育・管理するのに大変なお金がかかったため国王が失脚させようと思った家臣に白象を下賜したという逸話から生まれた言葉だという。
 Elephant in the roomからWhite elephantに発展していくのか。参院選を挟んで政局から目が離せなくなってきた。 

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