「憎しみの連鎖」をどう断ち切るのか   宇治敏彦

 連日のように報道されるテロやクーデター。フランスの独立記念日(7月14日)に南仏の景勝地ニースで花火を見ていた人々80人以上が31歳のチュニジア人男性の運転する暴走トラックで殺された。その翌日には中東とヨーロッパを結ぶ国トルコで軍の一部がクーデターを企て160人以上の市民や兵士が犠牲になった。
 なぜテロ事件は、こんなに多発するようになったのだろうか? トルコでのテロは、過激派組織「イスラム国」(IS)絡みが多いといわれるが、昨年来の主な事件だけても下記のように8件に及ぶ。
 ▽2015年7月20日 南東部スルチでISによるとみられる自爆テロで32人死亡。
 ▽同10月10日 首都アンカラ駅付近でISによるとみられる自爆テロで約100人死亡。
 ▽2016年1月12日 イスタンブールの「ブルーモスク」(有名な寺院)近くでISによるとみられる自爆テロ。10人死亡。
 ▽同2月17日 アンカラでクルド系急進派による軍事車両を狙った自爆テロ(29人死亡)。
 ▽同3月13日 アンカラでクルド系による爆弾テロで37人死亡。
 ▽同19日 イスタンブールの繁華街でISによるとみられる自爆テロで4人死亡。
 ▽同6月7日 イスタンブールでクルド系が警察車両を狙った爆弾テロ。11人死亡。
 ▽同28日 イスタンブールのアタチュルク国際空港でISによる自爆テロ。44人以上死亡。
 このようにトルコでは過去1年間で400人以上がテロなどで命を落としている。トルコには日本人が2000人以上滞在しているというが、気が気ではないだろう。筆者も何度かイスタンブールに仕事で出張したが、ボスポラス海峡を挟んでアジアとヨーロッパに分かれる歴史的都市は「長期に住んでもいいな」と思わせるほど魅力的な町だ。だが、現在は、うかうかしているとテロ事件に巻き込まれて命を落とす危険都市と化している。
 昨年来、トルコのほかフランス、イギリス、デンマークなどでも大規模テロ事件が連続的に発生し、今年7月1日にはバングラデシュの首都ダッカで日本人7人を含む23人が死亡するテロ事件もあった。日本人だから安心安全などということは無差別テロの前に通用しない。
 私たちは、これらのテロ事件をいかにして防ぐのか。どうしたら「憎しみの連鎖」を食い止められるのか。安倍首相も含めて世界の政治指導者たちは、早急にテロ対策サミットを開催して「テロの原因解明と防止対策」を講ずべき時だろう。
 「ぼくは君たち(テロリスト)を憎まないことにした」。昨年11月13日、パリ同時多発テロ事件で、劇場にいた愛妻をなくしたフランス人ジャーナリスト、アントワーヌ・レリス氏(元France Info、France Bleu文化担当記者)は、事件後、フェイスブックにテロリスト宛ての手紙を公開し、このように書いた。
 「金曜日の夜、君たちはかけがえのない人の命を奪った。その人はぼくの愛する妻であり、ぼくの息子の母親だった。それでも君たちはぼくの憎しみを手に入れることはないだろう。君たちが誰なのかぼくは知らないし、知ろうとも思わない。君たちは魂を失くしてしまった。君たちが無差別に人を殺すことまでして敬う神が、自分の姿に似せて人間をつくったのだとしたら、妻の体の中の銃弾の一つ一つが神の心を傷つけるはずだ」
 「息子とぼくは二人になった。でも、ぼくたちは世界のどんな軍隊より強い。それにもう君たちに関わっている時間はないんだ。昼寝から覚める息子のところへ行かなければならない。メルヴィルはまだ十七ヶ月。いつもと同じようにおやつを食べ、いつもと同じように遊ぶ。この幼い子供が、幸福に、自由に暮らすことで、君たちは恥じ入るだろう。君たちはあの子の憎しみも手に入れることはできないのだから」
 このメッセージは3日間で20万回以上閲覧され、やがて日本語版を含む「ぼくは君たちを憎まないことにした」(日本語版はポプラ社)という本になった。
 日本語版が出版されたのを機に著者が来日し、日本記者クラブで会見した。「どうしてテロリストたちを憎まない心境に至ったのか」。みんなが聞きたい質問に彼は、こう答えた。
「それは教示のようにやって来たのです」。
 でも筆者には疑問が残った。愛する人の命を奪った「犯人」を本当に憎まずにいられるだろうか。また、「憎まない」ことでテロリストやテロ行為は減っていくだろうか。「憎しみの連鎖」を断ち切ることは、確かに重要だが、憎まないでいればテロリストたちが、ますます付け上がることにつながらないだろうか。
 テロ行為の目的はまちまちだろうが、宗教上の思想信条は別としても「現状への不満」「体制への批判」がテロリストたちの心底にあることは間違いない。でも「自爆テロ」という行為はどう説明できるのだろうか。太平洋戦争末期の特攻隊と同様に自らの命を犠牲にして殺戮行為に出るのである。自ら進んでやるのか、組織からの命令で仕方なくやるのか、ケースバイケースとは思うが、自らの命を犠牲にするのだから、それ相応の覚悟がなければ出来ないことだ。
 その「覚悟」を押しとどめられるモノとか何なのか。そこが解明されないと、テロ行為の絶滅は困難だろう。
 筆者自身もテロ防止案を持ち合わせているわけではない。ただテロを起こしがちといわれる若者たちの心情に迫ってみたいと思っている。

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