小池百合子都知事を誕生させた有権者の心理とは  宇治敏彦

 内閣総理大臣は「国会議員の中から国会の議決で、これを指名する」(日本国憲法第67条)とあるように間接民主主義による選出だが、東京都知事をはじめ地方自治体の首長は有権者の一票がそのまま結果に反映する直接民主主義で選ばれる。
 7月31日の東京都知事選挙で、小池百合子氏は前回の知事選で舛添要一氏が獲得した220万票を約70万票上回る291万票の大量得票で当選し、東京初の女性知事になった。ただ得票率で見ると、歴代14位の44%にとどまった。これは候補者が21人と都知事選では最多だったことと自民・公明両党推薦の増田寛也氏、民進党など野党4党推薦の鳥越俊太郎氏など有力候補が揃ったことの影響だろう。
それにしても当初は自民党東京都連に同党の推薦を申請し、途中で返上して「独自の戦い」に挑んだ小池氏の戦略とは、いかなるものだったのだろう。そして有権者は、なぜ「小池知事」に雪崩をうっていったのだろうか?
 自民党は7月初旬まで公認候補として前総務省事務次官の桜井俊氏(アイドルグループ「嵐」の桜井翔の父親)を担ぎ出そうと画策していた。「真面目な高級官僚」「著名タレントの父」という要素で都知事選勝利は濃厚視されていた。安倍晋三首相が直接、声を掛ければ断るわけにはいくまい、との見方も強かった。だが、桜井氏は「家族に迷惑かけたくない」と固辞した。自民党はやむなく同じ官僚出身(元建設省紛争調整官)で岩手県知事3期、総務大臣経験者の増田氏に出馬を働きかけた。ここから小池氏の出馬戦略が加速していった。「自民党を敵に回すことで、都民を味方につける」という計算だ。
 7月31日、筆者は近くの広尾小学校へ投票に出かけながら、こんなことを考えた。
「小池候補に投票する人は、恐らく①女性の有力候補である②キャスター出身の現職衆院議員である③本来なら自民党候補として出るはずが、あえて自民と喧嘩して非政党色を鮮明にした④石原慎太郎元都知事の『厚化粧の女』発言に『今日は薄化粧できました』と機転で切り返した⓹猪瀬、舛添と2代続いたカネがらみ知事にはならないだろう、といった期待感を抱いているのではないか」と。
 「鳥越候補に投票する都民は『反安倍』『護憲』が第一の選択基準だろう」
 「増田候補に投票する有権者は『がちがちの自民支持者』『自民党共同推薦の公明党・創価学会関係者』『体質的に小池百合子嫌い』の人たちではないだろうか」
 要するに「景気・雇用対策」「直下型大震災対策」「4年後の東京オリンピック対策」「深刻さを増す待機児童問題」といった政策的争点よりも、有力3候補の「経歴」または「人間性と、そのイメージ」が主たる投票基準になっているのではないかと思った。
 その点、事前の世論調査で「小池優勢、追う増田、鳥越」と出たことは、政治記者感覚でいえば「有権者は皆よく見ているな」と感じた。告示前日の7月13日の日本記者クラブで行われた立候補予定者の共同会見(この時点では宇都宮健児氏も参加していた)で私が注目したのは直前に立候補を表明した鳥越氏の言動だった。「決意をボードで示してください」と司会に促されて各候補が公約や決意を書いて出席者に示したが、鳥越氏のボードには「ガン検診100%の達成」とあった。私だけでないと思うが、「ああ、これじゃ駄目だな」と思ったジャーナリストは多かったはずだ。これが都政への公約だろうか? 高い知名度と民進党など野党の応援という2つの「武器」でいけると思ったのだろうが、都政改革への具体策は何ら持ち合わせていなかった。しかも同夜、立候補を取りやめて鳥越支持を表明した宇都宮氏が求めていた「中央卸売市場の豊洲移転反対」などは採用しなかったことや鳥越氏の女性スキャンダル報道も影響して、宇都宮氏は一回も鳥越氏の応援演説に行かなかった。前回2年前の都知事選で約98万票を獲得し、舛添氏についで2位だった宇都宮氏も鳥越候補の人物像を見誤っていた。むしろ宇都宮氏は、自らが出馬すべきだったろう。
 さらに増田氏についていえば、日本生産性本部の会合などで「消滅可能都市」など岩手県知事経験者として日本の人口急減事態に警鐘鳴らしてきた実績は、私個人はよく承知しているが、一般都民は「増田って誰だ」という印象を抱いたかもしれない。7月19日夜、都市センターホテルで「故堀内光雄氏を偲ぶ会と堀内詔子衆院議員を励ます会」という会合が開かれたが、その席にもタスキ掛けで飛び入り参加した増田氏は「私は東京生まれです」と何度も強調していた。元岩手県知事といった印象を薄めようとの思惑があったのだろうが、「いまさら、それを強調しても」と聞いていた筆者には異様に思えた。東電の社外取締役だったという経歴も、脱原発を求める都民には違和感があったろう。
 そのころ小池候補は、黒川紀章氏が2007年の都知事選に立候補したとき開発したガラス窓の選挙カーに乗って、グリーンの「戦闘服」でグリーンのスカーフやハンカチを振る支援者を地滑り的に拡大していった。自民党東京都連が「増田候補以外の候補を応援したら処分する」との文書を流したことも、同党都連の石原伸晃会長、内田茂幹事長らの「権威主義」「強権政治」を印象づけて逆効果をもたらした。
 小池百合子氏が環境庁長官だった2003年当時、何回か話を聞く機会があったが、当時はおしゃれな「クールビズ」を開発し、町の景観保全も兼ねて電柱の地中化を図る「無電柱化」運動や通勤ラッシュ緩和のための山手線の2階建て電車導入プランなども披露していた。思いつきのようであって、それを継続してきたことは馬鹿にできない。マスコミの投票日出口調査によると、自民党支持層の5割以上が小池氏に投票し、増田氏への投票は4割未満だった。
 以上見てきたように当初は一見、無謀な挑戦に見えた小池氏の立候補だったが、実は他の候補よりはるかに計算された戦略があり、1100万有権者もしだいに小池戦略に吸い込まれていったというのが実態だろう。
問題は、これから小池知事が「都民ファースト」精神を今後どこまで具体化できるかだ。
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