安倍晋三長期政権の良し悪し    宇治敏彦

 7月の参院選に勝利して8月3日に第3次再改造内閣を発足させた安倍晋三首相の在職期間が年内に中曽根康弘元首相の在職期間(満5年)に並び、来年6月には小泉純一郎元首相の5年5か月も追い越そうとしている。戦後の総理大臣で在職期間の長さからいえば1位が佐藤栄作氏(7年8か月)、2位が吉田茂氏(7年2か月)だが、ひょっとしたらこの2人を追い抜いて戦後最長の内閣総理大臣になる可能性も出てきた。
二階俊博自民党幹事長は、早くも自民党総裁任期(現在は2期6年間)の改定論(3期9年間に)を示唆している。安倍総裁の任期は2018年9月で切れる。任期延長がなければ、ここで安倍政権は終わり、小泉、中曽根両政権を超えても、佐藤、吉田政権には及ばない戦後3位に留まる。
 旧田中角栄系の二階幹事長が、なぜ安倍総裁の任期延長を唱えているのだろう。一つには2020年夏の東京オリンピック・パラリンピックを安倍政権下で実現してもいいのではないかとの思い。もう一つには2018年12月で任期切れになる次期衆院選挙や2019年夏の次期参院選を、このところの国政選挙で勝利している安倍首相の下でやるのが自民党には得策との読み。勿論この他にも「安倍任期延長」を主導することで二階氏が安倍首相に貸しをつくり、党内での自らの政治的影響力を強めたいとの思惑もある。
 同じ旧田中派系でも石破茂氏は二階幹事長と対照的に「反安倍」の動きを強めている。8月の内閣改造で安倍首相から閣内にとどまって欲しいとの要請を受けたが、それを断って無役に転じた。今後は水月会という派閥を足場に次期総裁選に備える覚悟で、自らの思いを出版する準備に取り掛かっており、もちろん「総裁任期延長論」には反対している。
 こうした中で安倍首相が今後、どういう戦略に出てくるかを政治記者OBとして予測してみよう。いま安倍首相が内心、一番実現したいと思っていることはプーチン・ロシア大統領との首脳会談(12月に安倍首相の選挙区・山口県で開催)で日ロ平和条約の締結に目途を付けることであろう。これが実現すれば1956年(昭和31年)、鳩山一郎首相が日ソ国交回復を実現してからの懸案事項になっていた北方領土返還問題、日ロ平和条約の締結が60年ぶりに前進することになる。鳩山退陣後の岸信介政権における「日米安保条約」改定につぐ「新安保法制」の強行成立と合わせて、安倍政権は「一内閣一仕事」でなく「一内閣二仕事」を成し遂げた大宰相という声が自民党や経済界、さらに保守的な団体や右寄りの論壇から噴出してくることは目に見えている。現在40%台の内閣支持率も50%を超すかもしれない。
 そのときに安倍首相が目論む次の手は、衆院の早期解散だ。2017年夏には東京都議選が予定されているが、都議選とのダブル選挙を決断するかもしれない。そこで勝利すれば、2018年9月の総裁任期切れは「延長」に傾くのが自然の流れだろう。
 「そう安倍氏の思惑通りに進むかい?」という反論があるだろう。確かに「政界は一寸先が闇」といわれるように何が起こるか分からない世界である。首相自身の健康問題をはじめ「米国の新大統領誕生による日米関係、世界情勢の変化」「中国や北朝鮮のさらなる軍事的行動」「アベノミクスの不成功」「大規模震災の発生」など諸々の不安定要因も否定できない。だが現時点では「これが安倍政権崩壊のきっかけになる」と断言できるものはない。ひょっとしたら吉田、佐藤という長期政権を追い越して安倍政権が8年間の戦後最長政権になるかもしれないという想定も頭の片隅に置いておくべきだろう。
 最近は政治家だけでなく国民全体が「今日一日、無事に過ごせれば、それで納得」といった「劣化現象」が目立ってきた。あの3年半の民主党政権の失敗がいまだに尾を引いているようだが、そろそろ日本の進むべき本道を考え直す風が吹き始めても良いころではないだろうか。その責任の一端が私たちマスコミ人にあることは、もちろん強く自覚している。

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