ドキュメンタリー映画「抗い」を見よう   宇治敏彦

 「国家とは何か?」「国民とは何か?」「民族とは何か?」「戦争とは何か?」「権力とは何か?」―――。さまざまな「何か?」を考えさせられるドキュメンタリー映画を日本記者クラブでの試写会でみた。「抗い 記録作家 林えいだい」(RKB毎日放送。西嶋真司監督)。
 福岡県筑豊炭鉱で戦前・戦中に日本に徴用された朝鮮人たちの重労働や悲劇を中心に「戦争」「民族」「公害」などを長年取材し、国家権力の横暴がもたらす非条理を追及し続けてきた記録作家、林えいだい氏(82歳)を映像で追い続けてきた1時間半の記録映画だ。
 林さんは1933年12月、福岡県香春町に奈良時代から続く神社の神主(林寅治)の子として生を受けた。9歳の時、父は非業の死を遂げた。当時、筑豊炭鉱に強制労働に駆り出されていた朝鮮人たちが厳しい生活に耐えきれず脱走するのを気の毒に思って匿っていたのが発覚し、当時の特高警察から拷問を受けて命を落としたのだ。これが林えいじ少年を「反権力」に向かわせた最初のきっかけだった。早大中退後、帰省し炭鉱夫、地方公務員を経て37歳でフリーの記録作家への道に入った。以後、45年間に50冊以上のルポルタージュを発表しているが、その多くは「清算されない昭和 朝鮮人強制連行の記録」(岩波書店)「証言・樺太朝鮮人虐殺事件」(風媒社)「地図にないアリラン峠 強制連行の足跡をたどる旅」(明石書店)など戦前・戦中の日本の対外進出政策で犠牲になった被害者に関する取材記録である。
 映画では、筑豊炭鉱から脱走した朝鮮人労働者たちが「アリラン峠」と呼ばれた山道で行き倒れた様子を追っている。気の毒がった人たちが大きな石を選んで墓石とした。そうした石が今も山中にゴロゴロ転がっている。また1945年、一機の重爆特攻機が飛び立つ直前に放火された際に、朝鮮人飛行士(当時は山川という日本名)が無実の罪を着せられ日本軍に射殺された。映画は、その真実に迫ろうとする林氏の取材ぶりも詳しく追っている。
 戦後のテーマとしては、九州における炭鉱公害の実態を戦前の足尾銅山鉱害と重ね合わせて追及していく林氏の取材実績が描かれている。
 「僕は現場に身を置いて考える悪い癖がある」「名もなき民衆の声なき声を、しかと歴史にとどめていくことが、僕自身が生きている証しなのかもしれない」「時間とお金の無駄遣いだと友人に笑われるが、これが僕の方式であり生き方だ」。重い癌と闘い抗がん剤の副作用でペンが持てないほどだが、セロテープで万年筆を指に巻き付けて執筆をつづける林さんの姿に、同じ物書きの後輩として「自分なんかまだまだ生ぬるい。温室で仕事しているのではないか」と反省を込めて自戒した。
 「歴史の教訓に学ばない民族は 結局は自滅の道を歩むしかない。」
 映画の最後に掲示される林氏の言葉は、今日の日本にも当てはまる。
 見終わった後、しばし言葉を失っていた。一緒に鑑賞した小榑雅章君も沈黙していた。
(「抗い」は2017年1月下旬、シアター・イメージフォーラムで公開される)
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