トランプ氏がdisasterにならねばよいが  宇治敏彦

 アメリカでトランプ政権がスタートした。米国内外で「反トランプ」デモが起きるなど早くも波高しだ。政治家経験は州知事も上下両院議員も行政府幹部も経験ゼロで、いきなり大国のトップリーダーだから、環太平洋経済連携協定(TPP)の不承認、オバマケアの取り消しなど、やることも冒頭から荒っぽい。
TPP参加予定12か国の国内総生産(GDP)は約3100兆円(世界の約4割)だが、そのうちの6割が米国だからTPPはトランプ大統領の不承認サインで「死に体」になった。TPPの国会承認に汗をかいてきた安倍晋三首相とすれば「簡単にTPPを破棄されてはたまらない」というのが本音だろう。
 こうした米新大統領の言動は、一言でいえば「アメリカ・ファースト(米国第一)」の考え方だ。つまり「貧富の格差拡大」「失業問題の深刻化」「急増する移民対策」「生ぬるいテロ対策」など白人中心に高まる米国民の不平・不満解決を政権の最優先課題と考えている。
「自国優先」主義は欧州でも拡大している。昨年6月、英国が国民投票で欧州連合(EU)からの離脱を決定し、首相退陣につながったのを契機に「グローバリズム(地球規模の政治)」より「自国優先思潮」がほかの欧州諸国にも拡散し始めた。イタリアでは同12月、「実質的な一院制への移行や、エネルギー政策の権限を国の専権事項にする」などの憲法改正の是非を問う国民投票が大差で否決され、レンツィ首相が辞任した。今年は3月にオランダで総選挙、5月にフランスの大統領選挙、秋にはドイツ連邦議会選挙が予定されているが、いずれも「イスラム教徒排斥」「難民受け入れの規制」「反EU」などを掲げる右派勢力が台頭する機運だ。人道主義の立場から難民の受け入れに積極的だったドイツのメルケル首相の地位も決して安泰とは言えない。
 「まず自国民を大事にしろ」「移民は自国にとってチャンスでなく負担だ」(フランス国民戦線のルペン党首など)という主張がポピュリズム(大衆迎合主義)とも重なって国民の支持を増やしつつある。こうした傾向はアジアでも広がりを見せている。お隣の韓国では朴槿恵大統領が友人女性による国政介入疑惑で国民の猛反発を受け「死に体」状態になっている。
 世界を見廻して、目下のところ安定政権ないしは長期政権を維持しているのはロシアのプーチン大統領、トルコのエルドアン大統領、シリアのアサド大統領、イスラエルのネタニヤフ首相、そして日本の安倍首相などそう多くはない。安倍首相の在職日数(第1次内閣時代を含む)は昨年12月、中曽根康弘氏を抜いて戦後首相では歴代4位になった。波乱が無ければ今年は小泉純一郎氏の在職日数も追い越す。内閣支持率も50%台で安定している。
 しかし、この「高値安定」が2017年以降も続くかといえば、不透明な部分が多い。3つの流動要因がある。第1は、既に2年以上経過した衆院任期をにらみながら、いつ解散・総選挙を断行するかだ。次の選挙でも自民党が290議席をキープするのは容易ではない。特に約4割の同党議員が当選1、2回生だ。過去にも「小沢(一郎)ガールズ」とか「小泉(純一郎)チルドレン」といわれた当選1、2回生が次の選挙では多数落選した。「安倍チルドレン」の再選を期することが安定多数を維持できるかどうかのカギになる。
 第2には8月に予定されている東京都議選。現在は127議席の定数のうち自民党が60議席、公明党が23議席で過半数(64議席)を大幅に上回っている。だが小池百合子都知事が立ち上げた政治塾には約4000人が集まっており、同知事は「立候補したい人がたくさんいる。今の政治に不満を持っている方がいかに多いかの表れだ」として「東京大改革」を旗印に地域政党を立ち上げる。小池ブームが続けば、安倍自民党も都議選で苦戦を強いられるだろう。
 第3には、未知数の部分が多いトランプ米政権との付き合い方をはじめ事実上「大統領不在」の韓国や依然、友好関係の深まりが見えない中国との関係など安倍外交が試練の本番を迎える。特に中国とは2017年が日中国交正常化45周年、2018年が日中平和友好条約締結40周年に当たるので、中国側も「これらの記念すべき時までには、日中関係の本格的な改善を図りたい」(程永華駐日大使)としている。しかし日本政府の尖閣諸島国有化、中国の軍事大国化や南沙諸島進出、日中空軍の接近問題、安倍政権下での「改憲ムード」など、さまざまな要因が影響して、1972年9月の国交正常化当時の「日中友好ムード」は望むべくもない。
さらにG7サミットの存在感が薄れつつある。その背景には1999年から開催されているG20(G7に中国、インド、ブラジルなど新興国も加えた財務大臣・中央銀行総裁会議)、あるいは2008年からのG20首脳会合といった多国間首脳会合が定期化してG7の影が薄くなっているのだ。G7サミットは今年5月、イタリアのシシリア島で開催予定だが、昨年の伊勢志摩サミットでそれを提案したレンツィ首相はその後、辞任した。トランプ米大統領は出席してもグローバルな見地からG7をまとめていく役割を果たすかは、はなはだ疑問である。むしろトランプ氏の持論からすれば欧米で盛り上がっている「移民規制」の動きに同調して、それを推進するようサミット宣言に盛り込むべきだと主張しかねない。世界を前向きに引っ張っていくG7の時代は終わって、「自国優先」政策を主張しあう首脳会合にならなければ良いがと筆者は懸念している。
 このように2017年は世界規模でも、近隣外交でも、国内情勢でも、なかなか厳しい一年になる。できるなら安倍首相が過去の豊富な外国訪問経歴を生かして「G7」のまとめ役になるべきだろうが、それには先進国と開発途上国の格差是正策、移民問題や環境問題の解決策、さらにはIS(イスラム国)のテロ撲滅とシリア民主化の推進策など「世界的視野」で日本がどんな先導的役割を果たすことが可能なのかを国民とともに模索しなければならない。世界が「自国優先」主義に走る中で、「国際協調」を如何に維持していくか。それが安倍首相を含めて世界の政治リーダーに課せられた最大の宿題だ
 トランプ大統領はdisaster(災い)という言葉をよく使う。「オバマ前大統領はdisaster」といった具合に。ところが、そのトランプ大統領もdisasterになるかもしれない。就任式のスピーチでは「米国では政治家は豊かになったが、国民は職も工場も失った」と述べた。だが、今アメリカも世界も望んでいるのは米大統領らしい人物である。「トランプ大統領はdisaster」といわれないよう自戒してほしい。
(この原稿は「行政&情報システム」2月号に書いたものをその後の状況に合わせて補強したものです)
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