安倍首相の改憲「曲球(くせだま)」にどう対応すべきか   宇治 敏彦

 「安倍首相発明の改憲案には意表を突かれた」(文芸評論家・斉藤美奈子さん。10日付東京新聞朝刊「本音のコラム」)、「今回の9条改憲提案は、安倍さんが投げた曲球だと思います」(国際政治学が専門の加藤朗桜美林大学教授。9日付朝日新聞朝刊)などなど、安倍首相が5月3日(憲法記念日)の読売新聞紙上で明らかにした「改憲構想」が各方面に大きな波紋を投げかけています。
 安倍発言の骨子は「東京五輪・パラリンピックが開催される2020年施行を目指して①9条(戦争放棄)の1項、2項を維持したうえで、自衛隊に関する条文を追加する②教育無償化に関する日本維新の会の提案を歓迎する」というものです。
 なるほど「曲球」、あるいは「癖球」ですね。なぜかといえば、第一に連立を組んでいる公明党の「加憲」案や野党第一党の民進党内にもある「自衛隊明記論」(たとえば前原誠司氏の「9条3項、あるいは10条で自衛隊について明記する案」)などに配慮していること。
第二に、世論の取り込みのために「9条1項および2項には手をつけない」と明言していること。そして第三には「教育無償化」など9条以外のテーマでも日本維新の会など野党の改憲案に同調していることです。
 「読売新聞はさすが腰巾着、9日の社説でも『各党は、生産的な改正論議を展開してもらいたい』などと、ふんぞり返って書いている」と前掲の斉藤さんは指摘しますが、時事通信OBの杉浦正章氏は毎朝発信しているブログ「今朝のニュース解説」(11日)で次のように言及しています。
 「安倍が唐突に見える決断を下した背景を見れば、読売が絡んでいるという見方が濃厚だ。読売OB筋によると『どうもナベさんの進言が利いたらしい』とのことだ。読売新聞グループ本社主筆渡辺恒雄が首相に最近進言したというのだ」
 読売は既に同社としての「憲法改正試案」を作成(1991年以来、数回にわたり紙面で公表)しており、その第12条で国防に関して(1)自衛のための軍隊の保持(2)その最高指揮官は首相(3)国民に軍隊参加を強制しない、と規定しています。自公連立で衆参両院において3分の2を占めているうちに「改憲に着手すべきだ」と渡辺主筆が安倍首相にハッパをかけるのも十分あり得ることでしょう。安倍3選が可能な情勢になり、しかも2020年の東京五輪のお祭り騒ぎと一体化すれば、憲法改正という自民党結党以来の「宿題」も実現できるとあおったかもしれないと、筆者は想像しています。
 自民党内には「行政の長たる総理大臣には、もう少し慎重であっていただきたかった」(船田元・自民党憲法改正推進本部長代行)、「戦力を保持しないという9条2項が生きていては、自衛隊が警察なのか軍隊なのか答えが出ない」(石破茂・前地方創生相)など安倍首相の改憲発言に懸念、ないし異論をはさむ向きもあります。しかし、「当面9条改正は考えない」としてきたハト派集団の宏池会会長・岸田文雄外相は「いろいろな意見、考え方が示されるのは議論の活性化という点で意味がある」と安倍発言に困惑の表情ながら全否定の態度は示していません。やはり「安倍一強政治」の中で総理総裁に歯向かうことは与党幹部、主要閣僚といえども至難というのが現状のようです。
 野党第一党の民進党も前記のように9条改憲論者を党内に抱えて蓮舫代表が身動きできない状況です。
 筆者は、今日のようなナショナリズ再台頭の時代こそ日本は9条改憲をステップにする「武の政治」に偏るのではなく、戦後70年守られてきた平和憲法の「文の政治」による英知とリーダーシップを発揮すべきだ思います。
 幸いフランスの大統領選挙では反EU(欧州連合)を訴えた極右・国民戦線のルペン女史ではなく、EU統合推進派の中道・独立系の若手政治家(39歳)マクロン前経済相が勝利したことで、ヨーロッパ分裂の危機や右派台頭は一旦回避されました。メルケル独首相やEU首脳が喜んだのも無理はありません。また韓国の大統領選挙でも革新系野党「共に民主党」の文在寅(ムン・ジェイン)氏が対抗馬2人に大差をつけて当選しました。文大統領は10日、就任演説を行い、「私の心は統合と共存の新しい世の中を切り開いていく青写真で満ちている」「条件が整えば、平壌にも行く。朝鮮半島の平和定着のためなら、私が出来る全てのことをする」などと決意表明しました。
 この2つの大統領選結果に見られるような「文の政治」志向がいま地球規模で求められているのです。安倍首相の「9条改憲提案」に対して私は次の3点を逆提案します。
1、 トランプ米大統領の「アメリカ第一主義」に代表される世界的な「自国中心主義」の台頭に歯止めをかけ、冷戦終結後の「国際協調主義」機運を復活させるために、日本は「不戦の誓い」である憲法9条(戦争放棄)の精神に基づいて戦争・紛争には関係ない「経済」「技術」「人的支援」などの側面で、こうした協力が出来るという「日本の世界サポート計画」をまとめ、各国に提示してはどうだろうか。
北朝鮮に対しても、同国が核開発など軍事面での威嚇行動を停止すれば、経済的支援の用意があることを具体的に表明してはどうか。
2、 いま世界が「自国主義」に走っている底流にあるものとして「貧富の格差」「未来への不安」「人種差別」などがあります。それらの解決に向けて日本が「1億総活躍社会」規模でなく「地球総活躍社会」への提言やその推進のための組織作りに旗振り役を買って出てはどうだろうか。
3、 「過激派テロ」「難民・移民の急増」という問題が解決しない限り世界的な安定は至難の業です。「視線を上げて世界、未来を見つめながら、どういう国にしていきたいのか、平和で安全で繁栄している日本をどう守っていくのか、どう理想に近づけていくのか、それぞれが考える憲法論議にしていきたい」(3日の読売新聞での安倍首相インタビューでの発言)のであれば、まずは戦後70余年にわたり平和憲法の下で努力してきた日本の実績を世界に喧伝し、「平和憲法」イコール「国の発展」であるとの「模範」を誇示してはどうか。
 論客の田中秀征氏(元経済企画庁長官)は安倍提案への疑問として「9条の1項、2項を残しつつ、自衛隊を明文で書き込むのは明らかに矛盾」(9日付朝日朝刊)と強調しています。その通りですが、その点を追及するだけでは「安倍流曲玉」を跳ね返せないでしょう。条文表現の問題という視点を超えて、「不戦国家日本」という信念を貫く度胸や高い理念、具体策を提示することこそが安倍首相への返球になるい違いありません。
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