伊東正義氏の「頑固さ」が懐かしい昨今の政界  宇治敏彦

 自民党の堀内光雄さん(元通産相、元自民党総務会長)から「月刊『文藝春秋』3月号に故伊東正義さんことを書いたので読んでほしい」とコピーが送られてきた。伊東氏が、リクルート事件で退陣を決意した竹下登首相の「後継」に擬せられた時のことを堀内さんは、こう書いていた。
 「私たちも、今度こそ伊東さんに総理、総裁になってもらいたいと随分働きかけました。(中略)その後、『竹下首相、中曽根前首相、安倍幹事長らは、一度議員バッジを外し、けじめをつけるべきだ』と伊東さんは主張しましたが、受け入れられず、『表紙だけ変えても中身が変わらなければ駄目だ』と固辞しました。当時は私も『大臣や総理の職を辞するだけでなく、議員辞職まで求めるとは、大変なことを言う』と驚きましたが、今振り返ると、あの時こそが自民党の生まれ変わる最大のチャンスだったんです」
 1989年当時、私は政治部の部次長というデスク役だったが、「伊東さんへの手紙」と題する長文の署名原稿を5月8日の朝刊に書いた。
 「伊東さん、あなたが今、自民党から派閥を超えて『竹下後』の総理総裁候補に推されているのは、リ事件で失われた国民の政治(家)への信頼を取り戻すのに、金権体質からほど遠い清廉な人柄が最適任と見られているからにほかなりません。しかし、過去の政治浄化機能は、いつも『雨やどり』型で、風雨が過ぎるとケロッと前のことを忘れてしまいます。どうか、この悪いクセだけは繰り返さないで下さい。『政治への信頼回復』という大任を背負って、まことにご苦労さまですが、ご自愛のうえ、ご精進のほどを」
 私は堀内さんと同様に、伊東さんに総理総裁になってほしいと思った。しかし、竹下、中曽根氏両氏らが議員バッジを付けたままで「表紙だけ変えても」という伊東さんの気持ちは微動だにしなかった。竹下首相の要請を断った直後に伊東さんから手紙をもらった。
 「拝啓 お手紙拝読いたしました。私の出処進退については種々の批判は覚悟の上、一切弁解はいたしません」
 いかにも会津っぽの伊東さんらしい頑固さだ。以前、講演で会津へ行ったとき、地元の人から会津っぽ気質について説明を受けた。「長州(山口市)の市長さんが『1868年の会津戦争から大分経つので会津若松市と姉妹都市関係を結びたい』と私らの市長に申し出があったのです。だが私たちの市長は『まだ早過ぎる』と断ったのです」。私は問いかけた。「会津には伊東先生のような白虎隊精神を死守している政治家もいる一方、田中派の渡部恒三先生のような柔軟な政治家もいますね」。すると地元の人は即座に返答した。「渡部先生の選挙区は会津田島ですから。あそこは天領だったのですよ」。なるほど、同じ会津でも一刻者の生粋会津人と、天領(幕府直轄地)に育った融通無碍な会津人とでは異質だというわけか。
 1994年、伊東さんがなくなった後、当然、叙勲の話が出たが、輝子夫人は故人の遺志を体して固辞した。そのときも「『死んでも頑固』余話」というコラムを書いた(同年11月9日、東京新聞、中日新聞朝刊)ら岐阜県国府町で農業をしている木下(きした)行雄さん(当時70歳)から長文の手紙を頂いた。農林省のエリート官僚だった伊東氏が河野一郎の農相に抵抗して名古屋営林局長に左遷された時の部下だったという。木下さんによると、伊東夫妻は時々、名古屋で旧営林署仲間と会合していた。「ポスト竹下」の要請を受けたときも名古屋へみえたそうで輝子夫人は「そんなもの引き受けたら私は出ていきます」と言っていたという。木下さんの手紙には「本当は自民党が『なってもらっては困る人』と思っていたのでありませんか」とあった。後日、輝子夫人に聞いた話では「全国から受けろ、受けるなという手紙がたくさんきて、賛否の別に紙袋に保存しておきましたが、ちょうど半々でしたね。伊東をよく知っている人ほど反対でした」という。
 政治家・伊東正義も頑固一徹なら、支持者もまた頑固だったのだ。ちなみに伊東さんの戒名は「間雲院正義一徹居士」。輝子夫人も木下さんもご健在で、なお交友が続いている。「会津の三度泣き」(会津に左遷されて泣き、赴任したら会津人の親切に泣き、離任する際にはもっと会津に居たいと泣く)という言葉があるが、死してはや16年、それでも信奉者を泣かす政治家などは、めったにいない。堀内光雄さんは冒頭の一文で「(伊東さんが)生きていたら、きっと今の自民党に『死中に活を求めよ』というのではないでしょうか。(中略)まずは『自民党総裁』という呼び名を捨てろというのではないでしょうか。巨大与党となった民主党が『代表』なのに、その半分にも満たない自民党が『総裁』などという大時代の呼び方を続けている場合ではありません」と書いている。まったく同感だ。
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