「高感度」「高安定」「高淡白」―城山三郎さんの指導者論  宇治敏彦


 作家の城山三郎さんがなくなって3年になります。神奈川近代文学館で6月6日まで「城山三郎展―昭和の旅人」が開かれています。私が接した城山さんの思い出を書き留めておきます。城山さんから指導者論をじっくり聞いたのは1994年(平成6年)4月のことでした。当時、政界は細川護熙首相が退陣を表明して混迷を極めていました。連立時代の政治家はどうあるべきか。「政局への直言」と題して城山さんへのインタビューを2回にわたり新聞に掲載しました。そのときに城山さんが強調した指導者の条件が「3高」でした。
 「『高感度』とは、宰相として民の心が分からなくてはいかんということ。『高安定』は愚直さ。『高淡泊』は広田弘毅が言った『自らのために計らず』」。広田は東京裁判で戦犯として文官でただ一人死刑になった政治家で、城山さんは広田を主人公にした小説「落日燃ゆ」を書いています。広田元首相のどういう点を評価しているのか、聞いてみました。城山さんの答えです。
 「あの時代の第一課題は粛軍でした。テロ、クーデターで政権をかき回しても罪にならないという軍を見事に抑え込んだ。東京裁判でキーナン検事だって『広田の死刑はおかしい』と言ったぐらいだが、彼は一切弁明していない。検事に対して自分の罪を全部しゃべっている。自分がかぶらなければ天皇にいくと思って、すべて自分がやりましたと言って、初めから死を覚悟している。これに比べたら、戦後の宰相には興味が持てない。そういうことがなくて幸せですけどね」
 「(指導者に必要な資質は)愚直さと倫理でしょうね。浜口(雄幸元首相)さんは『政治家は最高の道徳基準でなければならない』と言っている。広田さんは土地を買うとき『値引きする』と言われたら、すぐ『取り消す』と答えている。そういう総理が今はいないですね。最近はその逆のことをやっている。総理だからといって庶民のできないカネもうけやってますよね」
 国民が高潔な指導者を求めていない側面もあるのでしょうか、と聞いてみると、こんな答えが返ってきました。「テレビがあまりにも安直に政治を取り上げるでしょ。基本のところへいかないで、表面的なところで政治、政治家を理解しちゃうでしょ。皆、簡単に評論家になっちゃう。本来は自分の生活の中から評論家になればいいのだが、テレビがこう言ったからとか、テレビ経由の評論家になっている。一種のサングラスをかけさせられている。皆、分かったように思わせられるのだが、そうじゃないんですよ」
 インタビューが新聞に掲載されてから間もなく城山さんから手紙が届いた。「名古屋と東京の友人たちからも感想を聞かされており、ほっとしています。とにかく学殖もなく自信もなく、ナウい感覚もなく、という状態でしたが、次々とよい質問に誘導されて何とか体面を保てたということです。こちらこそ学兄に感謝申し上げます。ただ少し言い足りなかったのは、広田が検事にしゃべったのは、裁判前の検事調書作成の段階であり、裁判に入ってからは『落日燃ゆ』に書いた通り、全く発言していないということです。結果的には同じことになるのですが―。羽田(孜)氏が『愚直』の道を選べるかどうか、じっくり凝視したいところです」
 その後、城山さんとはサンシャインゴルフ(中日、道新、西日本の新聞3社連合主催の文化人ゴルフコンペ)で何回か顔を合わせる場面があり、その都度、政治家論などをうかがった。城山さんのゴルフは決して華麗ではなかったが、愛妻の容子夫人をなくされた後は賞品の家庭用品や婦人洋品を手にしても、「もう僕には不要だから」と惜しげもなく後輩の作家たちに進呈してしまうのでした。ゴルフといえば城山さんの「一人ゴルフ」についても書き留めておきます。ホームコースの茅ヶ崎スリーハンドレッドCCで一人、プレーをしていたとき、後の組の3人が追いついたそうです。当時の奥田磧経団連会長ら財界人3人で、奥田氏は城山さんと同窓の一橋大学卒。まんざら知らぬ仲でもなかったことから「私たちとご一緒にどうですか」と誘ったそうです。だが、城山さんは「いえ私は結構です」と悠々と一人でプレーを続行したとのことです。いかにも「孤高の人」らしい行動ではありませんか。「変人」といわれても気にしない度胸がなくては出来ませんね。茅ヶ崎に詳しい人の話によれば、スリーハンドレッドでは当時一人でプレーするメンバーが3人いたそうです。中曽根康弘(元首相)、佐藤正忠(雑誌「経済界」主幹)両氏と城山さん。城山さんはキャディーたちに好かれていたようで、なくなったあとのゴルフ場の会員ロッカーにはキャディーたちによって、しばらく白い花が飾られていたとのことです。2007年5月、東京プリンスホテルで開かれたお別れ会は渡辺淳一氏(作家)の弔辞で爆笑に包まれるという椿事がありましたが、そのいきさつは拙著「木版画 万葉集」(蒼天社出版)に詳しく書きましたので、ここでは省きます。城山三郎さんのような「気骨の作家」「辛口の文化人」が少なくなって残念です。いまご存命なら、鳩山首相をはじめ現在の政治指導者たちにどんな苦言と助言を呈しただろうかと想像します。

スポンサーサイト

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

プロフィール

magazinehaniwa

Author:magazinehaniwa
ブログ雑誌埴輪へようこそ!
埴輪同人 宇治敏彦・小榑雅章
連絡先
 magazinehaniwa@yahoo.co.jp

最新記事
カテゴリ
最新コメント
月別アーカイブ
FC2カウンター
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR