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朝永振一郎先生の〈愛の手紙〉と花森さん    小榑雅章

「ねこ」の原稿は、「いいよ」と書いてくださったのだから、連載をお願いしても、きっと引き受けてくださる、と勝手に思い込み、「ねこ」の掲載誌をもって訪ねた。ところが、やさしいはずの朝永先生は、「だめだよ、ぼくはもの書きではないから、連載なんて書けないよ」
それから先は、押しても引いても全くだめ。あとは黙ってしまってとりつく島がない。
こうなれば何回でも通ってお願いしつづけるしか方法はない。ひと月に1度のペースで、武蔵境詣が始まった。そしてとうとう書いていただけたのが1976年2月発行の暮しの手帖2世紀40号掲載の「蚊・蚤・蠅・われら」だった。お願いしはじめてからこれまで、約5年半。武蔵境詣は50回ぐらいにはなっていた。花森さんももちろん大喜びだったが、連載は、この号から45号の「鳥獣戯画」まで、6回の連載で終ってしまった。
その「鳥獣戯画」の原稿を手渡ししてくださったときに、「もうこれで勘弁して」「そのかわり、これはどうかな」といって渡された分厚い原稿用紙を見ると、手紙を清書した文章だった。「家内が私に寄こした手紙だよ。〈愛の手紙〉」と、はにかむように笑われた。
「ありがとうございます」と受け取って帰り、花森さんに見せると、うーむ、と言って黙って私にもどした。「まだ返さなくていいよ、もう少し考えてみよう」
それから約1年2ヵ月後の1978年1月14日に花森さんは亡くなられた。
あの朝永先生の〈愛の手紙〉は、掲載せずに、まだ手元にあった。
そして、さらに1年半後の1979年7月8日に朝永さんが亡くなられた。
とうとう、〈愛の手紙〉は、朝永さんが生きておられる間に、掲載できなかった。
毎年、七夕が近づくたびに朝永先生のことを思い出す。そして胸が痛む。
「〈愛の手紙〉」とはにかむように笑われた朝永先生が、もういなくなってしまった。
申し訳ない。ほんとうにすいません。
なくなられて約半年後の1980年春の暮しの手帖65号に、
「夫・朝永振一郎への手紙  朝永領子」という記事を掲載した。その冒頭のリード文だけでも、ここに挙げる。
   戦後まもない昭和二十四年、主人は研究員として一年ほどアメリカ
   ヘ渡りました。私は三人の子供と留守をしながら、日々の暮しの出
   来ごとを記して手紙として送りました。それは幸い、外国暮しのき
   らいな主人にはなによりの慰さめになったらしく、大事に保存し、
   いつの聞にか、自分で清書して、活字にするのを夢みていたのです
花森さんが「まだ返さなくていいよ、もう少し考えてみよう」と言った意味は、掲載の時期を考えよう、ということではないかと気がついた。それが今だと思って掲載したのだった。
朝永先生には掲載誌を見ていただけなかったが、奥様の領子さんには、先生の思いを活字にして見ていただけましたよ。
この暮しの手帖65号のあとがき(編集者の手帖)に、この〈愛の手紙〉と朝永先生について、次のように記した。
***************
朝永振一郎先生のお原稿をいただきたくて、それこそ何十回も押しかけて、さぞご迷惑なことだったと思います。そんななかでのある日、暮しの手帖で電子レンジをテストしたすぐあとのことでした。
 「こんどの電子レンジのテストはよくやりましたね、電子レンジは摩擦熱だから、あれは煮炊きにはむかないものです。だから、アメリカあたりではウォーマーといって、あたためるものとして売っているのに、日本の電気メーカーは、煮炊きできると言って売っているのはおかしいので、こんど暮しの手帖のテストで〈煮炊きにむかない〉ということがはっきりしてよかったですね、いいお仕事でした」
  と、朝永先生に、このテストを評価していただいて、うれしかったことがありました。
  それから、やっと六回分のお原稿をいただき、評判がよく、もっとつづけさせていただきたいとお願いしたのですが、奥さまが、
 「朝永は、あの原稿に十日も二十日もかかりました。朝、起きぬけに床の中で書いていると思うと、それを消ゴムで消してまた書き、ちょっと書いて、また夜中に書いて、とても気の毒。もう勘弁してあげて」 とおっしやいます。
  そんなとき、先生がポツリとおっしゃったのが、奥さまの手紙だったのです。この手紙には先生はよほど愛着を感じていらっしゃったようで先生がご自身から〈愛の手紙〉と言っておられたくらいでした。
 いまおもえば、このときすでに先生はご病気にかかっておられたのでした。このお手紙を、今回のせさせていただきました。
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