贋金とは何だろう   宇治敏彦

 河上民雄さん(東海大学名誉教授、元社会党国際局長)から「長年の友人の作品です。小沢一郎氏を彷彿とさせる幹事長の興亡に贋札事件がからみます」とのメッセージとともに高橋勉氏の小説「報復の宴」(一穂社)を贈られて一読した。これがなかなか痛快な作品だ。熊坂幸範氏が理事長を務める「NPO法人ソーラー発電協会」は、出力3万キロワットの太陽光発電所を御影島に建設する目的で大蔵省OBが管理する役所の隠し金から250億円を引き出すことに成功した。だが熊坂理事長の本当の狙いは、その資金を使って贋札をつくることにあった。
 「こんな国にしたのは政治家と官僚と財界のボスどもだ。大企業は政治家とグルになって儲けるだけ儲け、政治家は企業の上前をはねて悦に入っていやがるし、官僚は天下り先を渡り歩いて、税金をロンダリングした法外な退職金を懐にしていやがる」「あいつらは紳士面をしたマフィアだよ。本当なら暴動が起こってもおかしくないんだが、日本人はおとなしいのか鈍感なのか、行動を起こそうとしないから、贋札をつくって国家マフィアにひと泡吹かせてやろう」「財布のなかに1万円札が10枚あるとして、そのうちの1枚が贋札ということになれば、贋札が贋札でなくなる」
 幸運な協力者に恵まれて贋札づくりに成功した熊坂理事長は、民政党の桜木圭介幹事長に総選挙の軍資金として50億円相当の贋札を献金する。さらにお金に困っている中小企業経営者たちにもねずみ小僧のように贋札を送り届けていく。当然、出回った贋札をめぐって警察が極秘捜査に乗り出すが、円の信用失墜を恐れた政府は日銀に自然回収されて贋札が市場から姿を消すのを待つ態度をとり、熊坂理事長は1年間に限った贋札づくりに幸せなピリオドを打つというお話だ。
 「ただの紙切れに1万円の価値があると思うのは、土地神話によって高騰したバブル期の土地の価格と同じで、単なる幻想にすぎない。幻想を信じるのは勝手だが、1000兆円もの借金をかかえる国の経済力が担保しているからといって、そんな紙切れが信用できるかい。俺はそんなもの信用する気になれない。真券が幻想にすぎない紙切れだとすれば、同じ紙切れをつくってどこが悪い」。作者は熊坂理事長にこう語らせている。
 いまNHKの大河ドラマで話題の坂本龍馬は、贋金づくりに手を染めていたそうです。竹下倫一著「坂本龍馬の『贋金』製造計画」(青春出版社)によると、徳川幕府は財政が悪化するたびに貨幣の改鋳(改悪)を行った。金の含有量が4割も減った万延二分金は、その切り札だったようだ。幕末は諸藩も財政難で、万延二分金の偽造品をつくる藩が出てきた。特に薩摩藩は鋳造技術者を江戸から呼び寄せて大量の贋金をつくっていたようで、坂本龍馬は土佐藩の岡内俊太郎に薩摩へ行ってニセ二分金を手に入れるよう頼み、さらには岡内を通じて土佐藩に贋金製造を建策させた。迷った末に土佐藩も明治元年、大阪の藩邸で贋金製造に乗り出し、やがてその工場は土佐の吉田東洋邸に移されたという。贋金製造をやった藩は会津、加賀、土佐など10以上にのぼり、土佐藩だけで5万両以上のニセ二分金がつくられたようだ。その目的は財政再建、軍備拡張のためだったが、明治政府ができて勝海舟が贋金騒動の収拾役として活躍したといわれている。
 贋金づくりを肯定する気はまったくないが、ギリシャの金融危機や日本国家の財政破綻状況をみると、お金の価値とか社会的役割をあらためて考えさせられる。
スポンサーサイト

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

プロフィール

magazinehaniwa

Author:magazinehaniwa
ブログ雑誌埴輪へようこそ!
埴輪同人 宇治敏彦・小榑雅章
連絡先
 magazinehaniwa@yahoo.co.jp

最新記事
カテゴリ
最新コメント
月別アーカイブ
FC2カウンター
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR